こんにちは。
つばさ社会保険労務士事務所の玉城翼です。
2025年4月、乗客から受け取った運賃1000円を着服した京都市営バスの元運転手に対して、懲戒免職および退職金約1200万円の全額不支給という処分が、最高裁で適法と認められました。
金額の大小ではなく、「信頼を損なう行為だったか」が厳しく問われたこの判決。
今回は、その内容をわかりやすく整理するとともに、企業の労務管理にとって何が重要かを解説します。
▲最高裁HP: 令和7年4月17日最高裁判所第一小法廷 判決(懲戒免職処分取消等請求事件)
🔍 判決の概要
事件の経緯
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被処分者:京都市交通局の元運転手
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着服内容:乗客から受け取った運賃のうち千円札1枚を売上処理せず着服
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発覚経緯:ドライブレコーダー映像による点検
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処分:懲戒免職+退職手当(約1,211万円)全額不支給
裁判の流れ
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一審(京都地裁):処分は適法と判断
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二審(大阪高裁):懲戒免職は認めつつも、退職金不支給は「酷に過ぎる」として処分取り消し
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上告審(最高裁):二審を破棄し、市の処分を支持。退職金全額不支給を「裁量権の範囲内」と判断
⚖️ 最高裁が重視したポイント
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運転手という職務の性質上、公金(運賃)の正確な取り扱いが求められる
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着服の金額ではなく、「職務上の信頼に対する重大な背信行為」
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初動で着服を否定した点も「誠実さに欠ける」と評価
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公共交通事業の信頼を損なう行為として、組織全体への影響が大きい
📌 企業が学ぶべき3つの教訓
1. 金額より「信用」を守ることが最優先
「たったこれだけなら……」という甘さは通用しません。
企業は顧客・社会との“信頼”を前提に事業を行っていることを、従業員にも共有していく必要があります。
2. 就業規則・懲戒規定の整備が不可欠
今回のように、退職金の不支給を含む処分を行うには、根拠となる規定の整備が必要です。
就業規則に懲戒の種類や退職金支給制限のルールを明記しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
3. モラル教育と内部通報体制の強化を
日常の指導や研修に加え、不正を早期に発見できる内部通報制度の整備もリスク対策になります。
「ばれなければ大丈夫」ではなく、「信頼を裏切らない行動をとること」が当たり前になる職場文化づくりが重要です。
📘 沖縄の企業が特に意識すべきこと
観光業・運輸業・福祉施設など、「信頼」が事業の根幹を支える業種が沖縄には多く存在します。
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観光業:接客やサービスの質が、リピートや口コミに直結
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運輸業:公共交通・物流で安全と誠実さが求められる
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福祉・介護:利用者や家族からの信頼が、施設の存続にも関わる
これらの業種では、不正や不祥事が発覚した際のダメージが非常に大きく、組織の信頼回復には長い時間とコストがかかるのが現実です。
だからこそ、今回の判例は「自社にも起こりうるリスク」として受け止め、制度と意識の両面からリスク管理を進めていくことが大切です。
✅ まとめ
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最高裁は、運賃1000円の着服に対し退職金全額不支給の処分を「適法」と判断
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金額の大小ではなく、信頼を損なったことが処分の決め手
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沖縄の主要産業では“信頼の維持”が事業の根幹
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就業規則の見直し、モラル教育、内部通報制度の整備が企業防衛につながる
就業規則の整備や懲戒対応のご相談は、つばさ社会保険労務士事務所へお気軽にご連絡ください。
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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