📅 令和7年5月16日、第217回通常国会にて「年金制度の機能強化」を目的とした改正法案が提出されました。
今回の改正では、企業にとっても労働者にとっても大きな影響がある「社会保険の適用拡大」に注目が集まっています。
▲法案説明資料(厚生労働省)
🔍 ポイント①:「106万円の壁」撤廃へ
これまで、パート・アルバイトなどの短時間労働者が厚生年金・健康保険に加入するには、
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月収88,000円以上(年収約106万円)
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週20時間以上
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従業員51人以上の企業
などの要件がありました。
📌 今回の法改正では、
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賃金要件(106万円の壁)を撤廃
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企業規模要件も段階的に撤廃
が打ち出されました。
つまり将来的には、週20時間以上働けば企業規模に関係なく社会保険に加入という制度に変わっていきます。
🏢 ポイント②:企業規模要件の撤廃スケジュール
短時間労働者が社会保険の対象となる企業の規模は、今後10年かけて段階的に縮小・撤廃されます。
従業員数(常時) | 社会保険の適用開始時期 |
---|---|
36人以上 | 2027年10月~ |
21人以上 | 2029年10月~ |
11人以上 | 2032年10月~ |
10人以下 | 2035年10月~ |
(注1)企業規模のカウント方法に注意
この「従業員数」は、厚生年金の通常の被保険者数(週30時間以上などフルタイムの4分の3以上)が基準になります。被保険者数は下記サイトで調べることができます。
厚生年金保険・健康保険 適用事業所検索システム(日本年金機構)
(注2)法人単位で判断される
複数の店舗や事業所があっても、別法人であれば個別に判定されます。
グループ企業で一体的に運営していても、法人ごとに要件を満たさなければ強制適用にはなりません。
👷 個人事業所にも適用拡大(2029年10月~)
これまで適用除外とされていた個人事業所(宿泊業・飲食業・農業など)にも、常時5人以上の雇用があれば社会保険の対象となります。
ただし、既に存在する事業所については当面適用除外され、任意加入の促進という形で導入されます。

💡 保険料負担が不安…という企業には支援策も
加入対象が増えることで、企業の負担が増えるのでは?という懸念に対して、支援策も同時に設けられる予定です。
① 社会保険料の本人負担軽減(最大3年間)
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月収12.6万円以下の短時間労働者が対象
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労使折半を超えて企業が保険料を一時的に多く負担し、その分を国が全額支援

② キャリアアップ助成金の拡充
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被用者保険の適用に当たり、労働時間の延長や賃上げを通じて労働者の収入を増加させる事業主をキャリアアップ助成金により支援する措置を検討
🏝️ 沖縄の中小企業・個人事業所も早めの備えを
沖縄では、
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従業員数が少ない事業所
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農業、宿泊業、飲食サービス業などの個人事業所
が多く、これまで社会保険の適用対象外だった事業所も多く存在します。
今回の改正により、
✅「うちは少人数だからまだ関係ない」は通用しなくなる
✅ 今後10年以内にほぼ全企業が加入対象になっていく見通しです
📌 まとめ|“いつか来る”ではなく“いま準備を”
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社会保険の対象拡大は、労務管理やコストに直結する大きな変化です
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制度のカウント方法や法人単位の取り扱いなど、実務的な知識が必要
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今のうちから制度を理解し、備えることが重要です
※5月17日時点。今後の国会審議において修正される可能性があります。
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由