
中小企業の経営者・人事担当者の皆さま、こんにちは。つばさ社会保険労務士事務所の玉城です。
従業員の昇給や役職変更があった際、「社会保険料はいつから変わるの?」「どんな手続きが必要?」と疑問に思われることはありませんか?
今回は実務に直結する重要なテーマ「随時改定(月変)」について、届出のタイミングや注意点を分かりやすく解説します 。
▲「健康保険・厚生年金保険事務手続きガイド 手続き(報酬に大幅な変動があったとき)」 7分22秒 (YouTube厚生労働省チャンネル)
📋 随時改定(月変)とは何か?
随時改定とは、従業員の固定的賃金に大幅な変動があった際に、年1回の定時決定を待たずに標準報酬月額を変更する手続きです。通称「月変(げっぺん)」とも呼ばれています。
🎯 なぜ随時改定が必要なのか?
社会保険料は標準報酬月額をもとに計算されますが、この仕組みにより:
- 従業員の実際の給与水準と保険料負担のバランスを保つ
- 適正な給付額の算定基準を確保する
このような重要な役割を果たしています。
✅ 随時改定の3つの適用条件
随時改定が適用されるには、以下の3つの条件すべてを満たす必要があります:
1️⃣ 固定的賃金が変動した
固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっているものを指します。
対象となる変動例:
🔹 基本給の昇給・降給
🔹 役職手当の新設・変更
🔹 家族手当・住宅手当の追加・変更
🔹 日給・時給の単価変更
🔹 歩合給の支給率変更
⚠️ 注意: 残業代やインセンティブなどの非固定的賃金の変動のみでは対象外です。
2️⃣ 変動月以降3ヶ月とも支払基礎日数が17日以上
変動月とは、昇給等により変動後の給与が実際に支払われた月を指します。
支払基礎日数の計算方法:
- 日給月給制: 事業所が定めた日数 − 欠勤日数
- 完全月給制: 対象期間の暦日数
- 時給・日給制: 実際の出勤日数
特定適用事業所の短時間労働者の場合は11日以上となります。
3️⃣ 標準報酬月額に2等級以上の差が生じた
変動前の標準報酬月額と、変動月から3ヶ月間の給与平均による新しい標準報酬月額との間に2等級以上の差があることが必要です。
📅 新しい保険料率の適用時期
重要ポイント: 随時改定による新しい保険料率は、報酬変動月から4ヶ月目から適用されます。
🌸 4月昇給企業は特に要注意!
年1回の昇給を実施する企業の大多数が4月に設定しているため、人事担当者の皆さまは4月昇給後の月変手続きを忘れがちです。
4月昇給の場合のスケジュール:
- 4月: 昇給後の給与支払い(変動月)
- 5〜7月: 3ヶ月の平均額を算出期間
- 8月: 新しい保険料率が適用開始 💡
- 手続き期限: 7月末頃までに月額変更届を提出
⏰ 4月昇給企業が陥りやすい落とし穴
- GW明けの業務多忙で手続きを失念
- 定時決定(算定基礎届)の準備と重複して見落とし
- 「来年の算定で調整されるだろう」という誤解
💡 対策: 4月昇給を実施した企業は、7月中の月変手続きをカレンダーに登録しておくことをお勧めします。
給与からの控除タイミング
- 翌月控除の会社: 9月支給の給与から新保険料を控除
- 当月控除の会社: 8月支給の給与から新保険料を控除
📝 月額変更届の手続きポイント
提出時期
随時改定の要件を満たした場合は速やかに提出が必要です。
提出先
- 管轄の年金事務所または事務センター
- 協会けんぽの場合は年金事務所のみでOK
提出方法
- 窓口持参
- 郵送
- 電子申請(一定規模以上の法人は電子申請が義務化)
記入時の注意点
- 被保険者整理番号は正確に記入
- 支払基礎日数の算出方法を確認
- 固定的賃金の変動理由を具体的に記載
⚠️ よくある注意事項
1. 随時改定の対象にならないケース
- 固定的賃金は上がったが、残業代減少で全体的に2等級以上下がった場合
- 固定的賃金は下がったが、残業代増加で全体的に2等級以上上がった場合
- 休職中で休職給を受けている場合
2. 提出漏れのリスク
月額変更届の提出漏れが発覚した場合:
- 遡及して保険料の差額処理が発生
- 長期間未提出の場合は催告状が送付
- 応じない場合は6ヶ月以下の懲役または50万円の罰金の可能性
3. 上限・下限での特例
標準報酬月額等級表の上限(32等級)・下限(1等級)に該当する場合は、2等級差がなくても随時改定の対象となる場合があります。
📞 まとめ:適切な随時改定で安心の労務管理を
随時改定は複雑な制度ですが、3つの条件の確認と適切なタイミングでの手続きがポイントです。
特に4月昇給を実施する企業の皆さまへ:
✅ 7月中の月変手続きをお忘れなく!
✅ GW明けの多忙期でも手続き漏れを防ぐスケジュール管理
✅ 算定基礎届の準備と並行した効率的な労務手続き
その他の中小企業でも:
✅ 昇給・降給のタイミングで要件確認
✅ 支払基礎日数の正確な算出
✅ 速やかな届出による適正な保険料負担
これらを確実に実行することが重要です。
従業員の処遇改善や組織の成長において、適正な社会保険手続きは欠かせません。特に4月昇給企業の7月手続きなど、見落としがちなタイミングでのサポートも含め、ご不明な点や手続きでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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