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【緊急】沖縄県最低賃金64円大幅アップへ!残業代計算との違いを知らないと危険です

過去最大の引き上げが県内企業に与える影響

2025年8月4日、厚生労働省の中央最低賃金審議会は、今年度の最低賃金引き上げ額について全国平均で63円アップという過去最大の目安を示しました。沖縄県はCランクに分類され、64円の引き上げ目安が示されています。

沖縄県の最低賃金動向

  • 現在: 952円(2024年度)
  • 改定後予想: 1,016円程度(64円アップ)
  • 改定時期: 2025年10月頃

この64円という大幅な引き上げは、県内中小企業にとって人件費負担の大幅増を意味します。しかし、多くの経営者が見落としがちなのが、残業代計算と最低賃金確認の基準の違いです。

沖縄県内の中小企業経営者の皆様、毎月の給与計算でこんな疑問を持ったことはありませんか。

「残業代の計算と最低賃金の確認、どちらも同じ計算式なら結果も同じになるはず」

実は、この考えは大きな誤解です。同じような計算式でありながら、算入する手当が異なるため、結果に大きな差が生まれることがあります。

今回は、最低賃金の大幅改定を控える今だからこそ知っておくべき「割増賃金の基礎となる賃金」と「最低賃金の対象となる賃金」の違いについて、具体例を交えながら分かりやすく解説します。

 

なぜ同じ式なのに結果が違うのか

どちらの計算も、基本的には以下の式を使用します。

計算式

  • 割増賃金の基礎となる賃金 = 月の所定支払額 ÷ 月平均所定労働時間
  • 最低賃金の対象となる賃金 = 月の所定支払額 ÷ 月平均所定労働時間

一見すると全く同じに見えますが、重要な違いは「月の所定支払額に含める手当」にあります。

労働基準法と最低賃金法では、それぞれ除外できる手当が異なって定められているのです。

 

除外される手当の違いを理解する

 

割増賃金の基礎から除外される手当(労働基準法)

除外される手当 除外の条件
家族手当 扶養家族数に応じて支給されるもの
通勤手当 実際の通勤費用に応じて支給されるもの
住宅手当 実際の住宅費用に応じて支給されるもの
別居手当・子女教育手当 該当する事実に応じて支給されるもの
臨時の賃金・賞与 一時的・不定期に支給されるもの

最低賃金の対象から除外される手当(最低賃金法)

除外される手当 特徴
精皆勤手当 出勤状況に応じて支給される手当
通勤手当 実際の通勤費用分として支給される部分
家族手当 扶養家族に対して支給される手当
所定外労働・休日労働・深夜労働の賃金 時間外労働等に対する割増賃金
臨時の賃金・賞与 一時的・不定期に支給されるもの

 

具体例で確認してみましょう

【ケース1】

月平均所定労働時間:168時間

  • 基本給:138,000円
  • 職務手当:10,000円
  • 皆勤手当:3,000円
  • 通勤手当:2,000円(実費支給)
  • 住宅手当:30,000円(実費相当)
  • 合計:183,000円

残業代基礎賃金の計算 = (138,000 + 10,000 + 3,000) ÷ 168 = 898.80円 (通勤手当・住宅手当は実費相当のため除外)

最低賃金対象賃金の計算 = (138,000 + 10,000 + 30,000) ÷ 168 = 1,059.52円 (精皆勤手当・通勤手当は除外、住宅手当は算入) → 現行952円はクリア、改定見込み1,016円もクリア見込み

 

【ケース2】

月平均所定労働時間:168時間

  • 基本給:148,000円
  • 職務手当:5,000円
  • 皆勤手当:20,000円
  • 通勤手当:2,000円(実費支給)
  • 住宅手当:5,000円(実費相当)
  • 合計:180,000円

残業代基礎賃金の計算 = (148,000 + 5,000 + 20,000) ÷ 168 = 1,029.76円

最低賃金対象賃金の計算 = (148,000 + 5,000 + 5,000) ÷ 168 = 940.47円 → 現行952円を下回り、改定見込み1,016円も大幅に下回る危険性

 

 

改定を見据えた緊急対応策

64円という過去最大の引き上げに対して、県内中小企業が取るべき対応策をご紹介します。

 

1. 緊急度の高い給与体系の見直し

64円という大幅引き上げにより、精皆勤手当に依存した給与体系は最低賃金割れのリスクが急激に高まります。基本給の比重を高める検討が急務です。

 

2. 改定前の全社員チェック実施

10月の改定前に、全従業員の最低賃金対象賃金を再計算し、1,016円を下回る社員がいないかの確認が必要です。

 

3. 手当の性格を明確化

通勤手当や住宅手当が「実費弁償」なのか「給与の一部」なのかを明確にし、就業規則に記載することが重要です。改定を機に賃金体系全体を見直しましょう。

 

陥りやすい落とし穴

落とし穴1:「総支給額が高いから大丈夫」という思い込み

手当の構成によっては、総支給額が高くても最低賃金を下回る場合があります。

落とし穴2:手当の名称だけで判断

「家族手当」という名称でも、家族数に関係なく一律支給なら除外できません。実質的な性格で判断する必要があります。

落とし穴3:法改正への対応遅れ

労働関係法令は頻繁に改正されます。定期的な情報収集と専門家への相談が不可欠です。

 

まとめ:正確な賃金計算で企業を守る

残業代計算と最低賃金の確認は、同じような計算式でも全く異なる観点から行われます。特に沖縄県内の中小企業では、限られた人事労務体制の中で正確な運用を行うことが求められています。

不適切な賃金計算は、従業員との信頼関係を損なうだけでなく、労働基準監督署からの是正勧告や未払い残業代の請求といった重大なリスクを招く可能性があります。

 

次のステップとして

  1. 現在の給与体系で計算の見直しを行う
  2. 就業規則や賃金規程の整備を確認する
  3. 定期的なチェック体制を構築する

給与計算でご不安な点がございましたら、お気軽にご相談ください。沖縄県内の企業特性を理解した専門家として、皆様の健全な企業運営をサポートいたします。


 

【無料相談実施中】 賃金計算や労務管理でお困りの経営者様、まずはお気軽にご相談ください。適切な給与体系の構築から就業規則の整備まで、実務に即したアドバイスを提供いたします。


このコラムを書いている人

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玉城 翼(たまき つばさ)

社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士

1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。

2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。

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