令和6年の監督指導結果から見えてきた深刻な現実と、今すぐ実践できる予防策
沖縄の中小企業経営者の皆様、「うちは残業代をきちんと払っている」と自信を持って言えるでしょうか。令和6年に厚生労働省が発表した監督指導結果では、全国で22,354件という驚くべき件数の賃金未払い事案が確認されました。これは前年比で1,005件も増加しており、決して他人事ではない状況です。
令和6年の監督指導結果が示す厳しい現実
厚生労働省の最新データによると、令和6年の賃金未払い事案の実態は以下の通りです。
監督指導結果のポイント
- 件数:22,354件(前年比1,005件増)
- 対象労働者数:185,197人(同3,294人増)
- 未払い金額:172億1,113万円(同70億1,760万円減)
注目すべきは、件数と対象労働者数が増加している点です。これは、残業代未払い問題が企業規模に関わらず広がっていることを示しています。
業種別に見る傾向と沖縄企業への影響
業種別の監督指導状況を見ると、以下のような傾向が見られます。

沖縄県内では特に、観光業や小売業、建設業が多く、これらの業種での労働時間管理の課題が顕在化しています。
よくある残業代未払いのパターンと対策
パターン1:割増賃金の基礎賃金算定ミス
事例:社会福祉施設での事案 職能手当等を割増賃金の基礎から除外して計算していた事例が報告されています。
対策ポイント
- 家族手当、通勤手当、住宅手当など法定除外手当以外は全て基礎賃金に算入
- 役職手当、技能手当、皆勤手当などは要注意
- 月1回の給与計算チェック体制を構築
パターン2:労働時間の把握不備
事例:倉庫業での事案 始業前の清掃作業に対して賃金が支払われていなかった事例が確認されています。
対策ポイント
- 使用者の指示による業務はすべて労働時間
- ICカード・タイムカードでの客観的記録を原則とする
- 自己申告制の場合は実態調査を定期実施
沖縄の中小企業が今すぐ実践すべき3つの対策
1. 労働時間管理システムの見直し
チェックポイント
- 始業・終業時刻の客観的記録の徹底
- 準備時間・後始末時間の労働時間算入
- 管理者による日々の確認体制
2. 給与計算システムの点検
確認項目 | 頻度 | 責任者 |
---|---|---|
基礎賃金の算定 | 毎月 | 人事・総務責任者 |
割増率の適用 | 毎月 | 給与計算担当者 |
支払い漏れチェック | 毎月 | 経営者・役員 |
3. 相談窓口の設置と定期チェック
従業員が安心して労働時間に関する相談ができる窓口を設置し、四半期ごとのチェックを実施することをお勧めします。
まとめ:予防こそが最良の対策
残業代未払い問題は、発生してからの対応では大きな負担となります。令和6年の監督指導結果を見ても、96%の事案で是正が行われていますが、その過程で企業が負担する金額や労力は相当なものです。
予防のための3つのアクション
- 今月中に労働時間管理の実態調査を実施
- 来月から客観的記録による時間管理を開始
- 四半期ごとの内部チェック体制を構築
沖縄の中小企業が持続的に発展していくためには、適切な労働環境の整備が不可欠です。単なるコンプライアンス対応ではなく、従業員との信頼関係構築と生産性向上のための投資と捉え、前向きに取り組んでいただきたいと思います。
労働時間管理や賃金計算でご不明な点がございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。沖縄の企業様の健全な発展をサポートさせていただきます。
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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