こんにちは、つばさ社会保険労務士事務所の玉城翼です。
先日、令和6年度の過労死等労災補償状況が公表され、沖縄県内でも48件の請求があったことが明らかになりました。この数字は、決して他人事ではありません。労働時間の適正な把握は、従業員の命と健康を守るとともに、企業が直面する法的リスクを回避する重要な経営課題なのです。
労働時間把握の法的責任を軽視できない理由
深刻化する過労死等の現状
令和6年度の沖縄県内における過労死等の労災補償状況を見ると、精神障害による請求が39件と大幅に増加しています。特に注目すべきは、20~50代の働き盛りの世代が多くを占めていることです。

これらの数字が示すのは、労働時間管理の不備が従業員の心身に深刻な影響を与える現実です。
使用者の法的責務と罰則リスク
労働基準法に基づき、すべての事業主には労働時間を適正に把握する責務があります。これは単なる推奨ではなく、法的義務です。
違反時の具体的リスク:
- 労働基準法違反による処罰(30万円以下の罰金)
- 労災認定による損害賠償責任
- 企業イメージの失墜と信用失墜
- 労働基準監督署による指導・勧告
実務で活用できる労働時間適正把握の具体的手法
基本原則:客観的記録による把握
労働時間把握の基本は、使用者による客観的な確認と記録です。以下の順序で実施することが重要です。
1. 原則的な把握方法
- 現認による確認:管理者が直接始業・終業時刻を確認
- 客観的記録の活用:タイムカード、ICカード、パソコン使用時間記録の活用
2. 労働時間の正しい考え方
- 使用者の指揮命令下に置かれている時間が労働時間
- 着替え時間、清掃時間も業務上義務付けられていれば労働時間
- 研修・教育訓練も業務上必要なものは労働時間に含まれる
自己申告制を避けられない場合の対策
やむを得ず自己申告制を採用する場合は、以下の措置を必ず講じてください。
必須措置 | 具体的内容 |
---|---|
十分な説明 | 労働者・管理者への適正申告の重要性説明 |
実態調査 | PCログと申告時間の乖離チェック |
上限設定禁止 | 申告可能時間数の上限設定は違法 |
記録保存 | 労働時間記録の3年間保存義務 |
沖縄の中小企業が陥りがちな労働時間管理の落とし穴
よくある誤解と対策
誤解1:「管理職は労働時間管理不要」 → 管理監督者の認定は厳格です。役職名だけでは判断されません。
誤解2:「残業代を定額で支払えば問題ない」 → 実労働時間との乖離があれば違法です。
誤解3:「小規模事業所は適用外」 → 労働基準法は従業員数に関係なく適用されます。
沖縄特有の課題と解決策
観光業や飲食業が多い沖縄では、季節変動や不規則勤務が労働時間管理を複雑にしています。しかし、だからこそ適正な把握が重要です。
観光・飲食業での実践ポイント:
- シフト制でも始業・終業時刻の個別記録
- 繁忙期の時間外労働事前計画
- 36協定の適切な締結と運用
今すぐ実践すべき労働時間管理改善アクション
Step1:現状把握と体制整備(すみやかに)
-
労働時間記録方法の点検
- タイムカード等の客観的記録導入
- 自己申告制の場合は実態調査実施
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責任者の明確化
- 労働時間管理責任者の指名
- 管理職への適正管理教育
Step2:予防措置の構築(3か月以内)
-
36協定の見直し
- 実態に即した時間外労働上限設定
- 健康確保措置の具体的計画
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記録保存体制の確立
- 3年間の記録保存システム構築
- 定期的な記録点検体制
Step3:継続的改善の仕組み(6か月以内)
労働時間等設定改善委員会の活用により、労使協議を通じた継続的な労働環境改善を図ることが重要です。
法令遵守は企業の持続的成長への投資
労働時間の適正把握は、コストではなく企業価値向上への投資です。適切な労働時間管理により、従業員の健康維持、生産性向上、優秀な人材の確保・定着が可能になります。
特に沖縄の中小企業においては、限られた人材を大切にし、長期的に活躍してもらうことが競争力の源泉となります。
まとめ:今こそ行動を
過労死等の労災認定件数の増加は、決して他人事ではありません。労働時間の適正把握は、従業員の命と健康を守り、企業の法的リスクを回避する最重要課題です。
今すぐ自社の労働時間管理体制を見直し、必要な改善措置を講じることで、安心して働ける職場環境を構築しましょう。
労働時間管理でお困りの際は、つばさ社会保険労務士事務所までお気軽にご相談ください。沖縄の企業様の持続的発展をサポートいたします。
つばさ社会保険労務士事務所
社会保険労務士・キャリアコンサルタント 玉城翼
沖縄県内中小企業の人事労務支援・組織づくり専門
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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