退職代行サービスが激変!経営者が知るべき2025年の新状況と対応策

最近、退職代行業界に大きな変化が起きており、沖縄の中小企業経営者の皆様も無関係ではありません。東京弁護士会の公式見解により、これまで主流だった労働組合との提携による退職代行サービスが大幅に減少し、業界のルールが変わりつつあります。

この変化により、企業側の対応方法も見直す必要があります。正しい知識を持って適切に対処することで、トラブルを防ぎ、スムーズな労務管理を実現できます。

退職代行業界に何が起こったのか

2024年11月、東京弁護士会が「退職代行サービスと弁護士法違反」という公式見解を発表。この中で、「業者が本人から代金を受け取って、法律的な問題について話し合い(交渉)になったら、提携先の労働組合が行うとしている。しかしながら、お金を受け取って、法律的な問題の処理を他者(本事例では労働組合)へ斡旋することは、非弁行為である」と明確に指摘されました。

また、「労働組合が交渉をする場合であっても、労働組合の行為が必ずしも非弁行為にならないとは限らない」とも警告されており、労働組合との提携そのものにも法的リスクがあることが示されました。

このことが影響したのか最近では大手業者が労働組合との提携を全面的に削除するという大変化が起きました。

 

退職代行サービスと弁護士法違反(東京弁護士会)

 

「使者」と「代理人」の決定的な違い

現在の退職代行業者は再び「使者」の立場に戻っています。使者は事前に用意された内容を一方的に伝えるだけで、相手からの反論に対応したり、その後の交渉を行ったりすることはできません。

一方、弁護士は「代理人」として、依頼者の分身となって交渉や説得を行うことができます。この違いは、企業側の対応にも大きく影響します。

 

経営者が知っておくべき実務上の注意点

退職代行からの連絡への対応

退職代行業者から連絡があった場合、まず相手が「使者」なのか「代理人(弁護士)」なのかを確認しましょう。使者の場合、彼らは退職の意思を伝えることしかできないため、詳細な交渉や調整は直接従業員本人と行う必要があります。

交渉が必要になるケース

 

実際の退職では、退職の意思表示だけでは済まない案件が約7割を占めます。以下のような事項について、企業側からも適切な対応が求められます。

項目 企業側の対応ポイント 注意事項
有給休暇の処理 法定通り消化権を認める 不当な制限は労働基準法違反
退職金の支給 就業規則に基づき適正に計算 支給拒否は後日トラブルの原因
業務引継ぎ 合理的な範囲での協力要請 過度な要求は退職妨害となる
返却物の確認 リストを作成し確実に回収 紛失の責任所在を明確化
必要書類の発行 離職票・源泉徴収票等を速やかに準備 発行拒否は法令違反

 

特殊なケースへの対応策

契約社員・業務委託の場合

正社員と異なり、契約社員や業務委託契約者の場合は、契約期間中の退職には企業の合意が必要です。退職代行業者が「使者」の場合、この合意形成について交渉することはできません。企業側は、合理的な理由があれば契約期間満了まで勤務を求めることも可能ですが、パワハラなど正当な理由がある場合は柔軟に対応することが望ましいでしょう。

 

パワハラ慰謝料請求への対応

特に注意が必要なのは、退職と同時にパワハラの慰謝料請求がある場合です。東京弁護士会が公表した事例では、契約期間の途中退職とパワハラ慰謝料請求について、業者が労働組合に「斡旋」することが非弁行為と判断されました。

このようなケースでは、企業側は以下の点に注意して対応する必要があります:

  • 相手が本当に労働組合の正式な代表者なのかを確認する
  • パワハラの事実関係について冷静に調査を行う
  • 安易に認めたり否定したりせず、客観的な証拠に基づいて判断する
  • 複雑な法的問題が絡む場合は、弁護士への相談を検討する

企業としては、相手の主張を頭ごなしに否定するのではなく、事実関係を丁寧に確認し、適切な対応を取ることが重要です。

 

即日退職の申し出への対応

民法上、退職の意思表示から2週間で雇用関係は終了しますが、即日退職の場合は企業の合意が必要です。業務に支障をきたす可能性がある場合は、合理的な引継ぎ期間を設けることを提案しましょう。ただし、従業員の心身の状況を考慮し、柔軟な対応も検討することが重要です。

 

企業が取るべき予防策と準備

就業規則の見直し

退職手続きに関する規定を明確にし、有給休暇の消化方法、業務引継ぎの期間、返却物のリストなどを具体的に定めておきましょう。曖昧な規定はトラブルの原因となります。

労働環境の改善

 

退職代行を利用される背景には、直属の上司や人事担当者に直接退職を申し出にくい職場環境があることが多いです。日頃からコミュニケーションを大切にし、従業員が相談しやすい環境づくりを心がけましょう。

対策項目 具体的な取り組み
相談窓口の設置 人事部門以外の相談ルートを確保
定期面談の実施 半年に1回程度の個別面談で課題を早期発見
マニュアルの整備 退職手続きの流れを文書化し、周知徹底
管理職教育 部下との適切なコミュニケーション方法を研修

トラブルを避けるための対応原則

感情的にならず冷静に対処

退職代行から突然連絡が来ると驚かれるかもしれませんが、感情的な対応は避けましょう。法的根拠に基づいて、冷静かつ適切に対応することが重要です。

記録の保存

退職代行業者とのやり取りは全て記録に残しましょう。後日トラブルになった際の重要な証拠となります。電話での連絡の場合も、その内容を文書で確認することをお勧めします。

専門家への相談

複雑なケースや法的な判断が必要な場合は、早めに社会保険労務士や弁護士に相談しましょう。適切な専門家のアドバイスにより、リスクを最小限に抑えることができます。

 

まとめ:変化に対応した労務管理の重要性

退職代行業界の変化により、企業側も従来とは異なる対応が求められるようになりました。特に、業者が「使者」に戻ったことで、企業は従業員本人との直接的なやり取りが増える可能性があります。

この状況を「問題」として捉えるのではなく、労働環境を見直し、より良い職場づくりを進める「機会」として活用していただければと思います。適切な就業規則の整備、円滑なコミュニケーション体制の構築、そして専門家との連携により、トラブルのない労務管理を実現しましょう。

 

退職代行への対応でお困りの際は、地域に根ざした社会保険労務士として、沖縄の企業様の実情に合わせたサポートを提供いたします。お気軽にご相談ください。


参考動画:
より詳しい情報については、弁護士による解説動画もご参照ください。
「【退職代行 弁護士】2025年6月、退職代行が激変!今これを知らないと危険です。何が変わったのかを弁護士タケハラが解説します。」
https://www.youtube.com/watch?v=yr-gvioD9Kw


このコラムを書いている人

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玉城 翼(たまき つばさ)

社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士

1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。

2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。

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