
こんにちは。つばさ社会保険労務士事務所の玉城です。先日、株式会社ドクタートラストが実施した2024年度ストレスチェック全業種データ分析レポートが発表され、業種別の健康リスクの傾向が明らかになりました(参考:健康リスクが高いのは「運輸業・郵便業」、「医療・福祉」、「宿泊業・飲食サービス業」|共同通信PRワイヤー)。この調査結果は、沖縄の中小企業経営者の皆様にとって、従業員の健康管理と組織づくりを考える上で非常に参考になる内容です。
今回は、2024年度のストレスチェック調査結果と沖縄県の産業構造データを重ね合わせ、県内企業が直面する課題と今すぐ実践できる対策について解説いたします。
沖縄県の産業構造とストレス問題の深刻度
沖縄県の就業者データ(令和6年)と全国ストレス調査を重ね合わせて分析すると、憂慮すべき状況が浮かび上がってきます。
業種 |
沖縄県就業者数 (千人) |
高ストレス者率 (全国) |
影響度評価 |
---|---|---|---|
宿泊業・飲食サービス業 | 68 | 19.3% | 最重要課題 |
医療・福祉 ※就業者数は教育、学習支援業含む | 170 | 15.1% | 重要課題 |
製造業 | 36 | 17.3% | 重要課題 |
運輸業・郵便業 ※就業者数は情報通信業含む | 53 | 16.2% | 重要課題 |
卸売業・小売業 | 111 | 15.8% | 注意必要 |
特に注目すべきは、沖縄県内で最も多くの人が働く「卸売業・小売業」(111千人)も高ストレス者率が15.8%と高い水準にあることです。これは沖縄県全体で約17.5千人(111千人×15.8%)もの従業員が高ストレス状態にある可能性を示唆しています。
沖縄特有のリスク要因
沖縄県の地理的・気候的特性が、ストレス要因を増大させている可能性があります:
季節要因:
- 繁忙期(夏季・冬季観光シーズン)の業務負荷集中
- 台風シーズンにおける業務中断と挽回業務の発生
地理的要因:
- 離島部での医療・福祉従事者の孤立感
- 本土との物流遅延による製造業・卸売業への影響
社会的要因:
- 観光需要の変動による雇用の不安定さ
「仕事の負担・コントロール」と「上司・同僚からのサポート」の重要性
健康リスクは2つの指標から算出されます。
仕事の負担・コントロールでは、宿泊業・飲食サービス業が最も高いリスク値を示しました。これは業務量の多さに対して、従業員が仕事の進め方や時間配分をコントロールできる裁量権が少ないことを意味しています。
上司・同僚からのサポートでは、運輸業・郵便業と製造業のリスクが高く、一人で業務を行うケースが多いため、職場での相談や支援を受けにくい環境があることが伺えます。
高ストレス者率の現状と傾向
高ストレス者率(全国平均13.6%)を上回る業種は以下の通りです。
- 宿泊業・飲食サービス業:19.3%
- 製造業:17.3%
- 運輸業・郵便業:16.2%
注目すべきは、5年前(2019年)と比較して、宿泊業・飲食サービス業のみが5.2%も悪化している点です。これはコロナ後のインバウンド需要回復と人材不足のギャップが影響していると考えられます。
沖縄企業が今すぐ実践すべき3つの対策
1. 職場のコミュニケーション強化
高ストレス者率の改善には、上司・同僚からのサポート体制の構築が不可欠です。
具体的な取り組み:
- 月1回の1on1面談の実施
- 気軽に相談できる「困った時のヘルプライン」設置
- チーム単位での定期的なコミュニケーションタイムの確保
2. 業務負荷の見える化と調整
仕事の負担とコントロールのバランスを改善するため、業務の見える化が重要です。
段階 | 取り組み内容 | 期待効果 |
---|---|---|
見える化 | 業務量・時間の記録 | 負荷の実態把握 |
分析 | 部門・個人別の負荷分析 | 偏りの発見 |
調整 | 業務分担の最適化 | 負荷の平準化 |
裁量拡大 | 業務プロセスの改善提案権付与 | コントロール感向上 |
3. 地域特性を活かした働き方改革
沖縄の気候や文化的背景を活かした独自の働き方改革を推進しましょう。
沖縄ならではの取り組み:
- 夏場の業務時間調整(早朝開始・午後休憩延長)
- 地域イベントに合わせた柔軟な休暇制度
- 台風等の自然災害時のテレワーク体制整備
健康経営への第一歩 -予防から始める組織づくり-
ストレスチェックの結果は「治療」ではなく「予防」のための指標です。高ストレス者が発生してから対応するのではなく、職場環境そのものを改善することで、従業員全員が働きやすい環境を創造することが重要です。
特に沖縄県内の中小企業では、以下の点を意識した取り組みが効果的です:
- 段階的な改善:一度にすべてを変えるのではなく、優先順位をつけて計画的に実施
- 従業員参加型:改善案を従業員自身が提案できる仕組みづくり
- 継続的なモニタリング:定期的な従業員満足度調査やヒアリングの実施
まとめ -持続可能な組織づくりに向けて-
全国調査データが示すように、業種によってストレス要因は大きく異なります。しかし、どの業種においても「コミュニケーション」と「業務負荷の適正化」は共通の改善ポイントです。
沖縄の企業が持続的に成長していくためには、従業員一人ひとりが心身ともに健康で、能力を最大限発揮できる職場環境の整備が不可欠です。今回ご紹介した対策を参考に、まずは小さな一歩から始めてみませんか。
つばさ社会保険労務士事務所では、沖縄県内の中小企業の健康経営推進をサポートしています。職場のストレス要因分析から具体的な改善計画まで、実務経験に基づいた実践的なアドバイスを提供いたします。お気軽にご相談ください。
【お問い合わせ】つばさ社会保険労務士事務所
労務管理・組織づくり・人材育成のご相談承ります
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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