
沖縄県内の中小企業経営者の皆さま、令和7年10月1日から育児・介護休業法の重要な改正が施行されています。
今回の改正で最も影響が大きいのは、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対する「柔軟な働き方を実現するための措置」の義務化です。既に4月から段階的に施行されている子の看護休暇の拡大や介護制度の個別周知と合わせて、企業の人事労務管理は大きな転換期を迎えています。
「柔軟な働き方を実現するための措置」の全体像
企業は以下5つの選択肢から2つ以上を措置し、労働者が選択できるようにすることが義務付けられました。これにより、従来の3歳未満対象の短時間勤務制度だけでは対応できない、より長期的な両立支援が求められています。
各措置の特徴と導入のポイント
措置の種類 | 制度の要件 | 中小企業での活用例 |
---|---|---|
短時間勤務制度 | 6時間以下への短縮 | 既存制度の対象年齢拡大 |
始業時間等の変更 | フレックスタイム制または時差出勤 | 保育園送迎に配慮した時差勤務 |
テレワーク等 | 月10日以上、原則時間単位利用 | 在宅勤務・サテライトオフィス利用 |
養育両立支援休暇 | 年10日以上、原則時間単位取得 | 学校行事・突発対応用特別休暇 |
保育施設の設置運営等 | 保育施設設置またはベビーシッター手配 | 近隣企業との共同保育・提携サービス利用 |
沖縄県内中小企業に適した制度設計パターン
パターン1:基本型(最も導入しやすい組み合わせ)
「短時間勤務制度」+「始業時間等の変更」
既存の3歳未満向け短時間勤務制度を小学校就学前まで延長し、合わせて時差出勤制度を新設する組み合わせです。規程改正の手間が最小限で済み、多くの中小企業で採用されています。
パターン2:充実型(従業員満足度重視)
「短時間勤務制度」+「養育両立支援休暇」
年10日以上の新しい休暇制度を追加することで、短時間勤務制度だけでは対応できない突発的なニーズにも対応できます。
パターン3:先進型(テレワーク可能業種向け)
「テレワーク等」+「養育両立支援休暇」
IT関連企業や事務職中心の企業で導入が進んでいる組み合わせです。柔軟性が高い一方で、労務管理体制の整備が必要です。
制度導入における実務上の注意点
1. 過半数労働組合等からの意見聴取
制度導入前に、過半数労働組合または過半数代表者からの意見聴取が法的に義務付けられています。この手続きを経ていない場合は、速やかに実施する必要があります。
2. 個別周知・意向確認の実施
子が3歳の誕生日1か月前までの1年間に、以下の内容について個別に周知と意向確認を行う必要があります:
- 柔軟な働き方を実現するための措置の内容
- 措置の申出先
- 所定外労働の制限制度等
3. 個別意向聴取・配慮の新設
令和7年10月から新たに義務化された制度で、妊娠・出産等の申出時および子が3歳になるまでの適切な時期に、以下について聴取・配慮する必要があります:
- 勤務時間帯の希望
- 勤務地の希望
- 両立支援制度の利用期間の希望
運用開始後の管理ポイント
管理項目 | 実施内容 | 実施タイミング |
---|---|---|
制度利用申請の審査 | 事業の正常な運営を妨げる場合以外は承認 | 申請都度 |
代替要員の確保 | 業務分担調整・一時的な増員検討 | 制度利用開始前 |
制度利用状況の把握 | 利用者数・利用率・満足度の定期確認 | 四半期毎 |
制度導入のメリットと企業価値向上
人材確保・定着効果
沖縄県内でも人材不足が深刻化する中、充実した両立支援制度は優秀な人材の確保と定着に直結します。特に子育て世代の女性労働者の継続就業率向上が期待できます。
生産性向上への寄与
柔軟な働き方制度の導入により、従業員の満足度向上とワーク・ライフ・バランスの実現が図れ、結果として生産性の向上につながることが多くの事例で確認されています。
企業ブランド価値の向上
働きやすい職場としての評価が高まることで、採用活動における競争優位性を確保できます。
よくある質問と対応策
Q:既に短時間勤務制度があるが、新たに制度を作る必要があるか? A:既存制度の対象を小学校就学前まで拡大すれば、追加で別の措置を1つ講ずることで義務を満たせます。
Q:テレワークができない業種はどう対応すべきか? A:「短時間勤務制度」「時差出勤制度」「養育両立支援休暇」「保育施設関連措置」の中から2つを選択することで対応可能です。
Q:制度を利用する従業員がいない場合でも対応が必要か? A:現在利用者がいなくても、制度の整備と周知は法的義務です。将来の利用者のために制度を準備する必要があります。
今後の展望と継続的改善
令和7年10月の制度施行は、企業の両立支援取り組みの新しいスタートラインです。制度を導入した後は、実際の利用状況や従業員からのフィードバックを踏まえて、より使いやすい制度への改善を継続的に行うことが重要です。
また、令和8年度以降も働き方改革関連の法改正が予定されている可能性があるため、常に最新の動向を把握し、先手を打った対応を心がけることで、競争優位性を維持できます。
まとめ
令和7年10月施行の育児・介護休業法改正は、企業にとって新たな責任を伴う一方で、人材確保と企業価値向上の大きな機会でもあります。
まずは法的義務を確実に果たしつつ、自社の業種や従業員構成に最適な制度設計を行うことから始めましょう。制度の詳細設計や運用における疑問点については、社会保険労務士等の専門家のサポートを活用することで、確実かつ効率的な導入を進めることができます。
制度導入や運用改善についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。御社に最適な両立支援制度の設計をサポートいたします。
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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