
「従業員の勤務態度が悪く、何度注意しても改善されない」「重大な規律違反があった」——そんなとき、懲戒解雇を検討される経営者の方もいらっしゃるでしょう。しかし、懲戒解雇は最も重い処分であり、法的要件を満たさなければ無効となるリスクがあります。この記事では、沖縄県内の中小企業経営者・人事担当者の方に向けて、懲戒解雇の基本から実務上の注意点までを分かりやすく解説します。読了後は、適切な労務管理の第一歩を踏み出せるはずです。
懲戒解雇とは?—最も重い処分だからこそ知っておくべき基本
懲戒解雇とは、従業員が重大な職場規律違反や企業秩序違反を犯した際に、会社が労働契約を一方的に解約する処分です。懲戒処分の中でも最も重い制裁であり、退職金の不支給や減額を伴うケースが多く、従業員の再就職にも大きな影響を与えます。
懲戒処分の種類と懲戒解雇の位置づけ
懲戒処分には、軽い順に以下の種類があります。
処分の種類 | 内容 | 重さ |
---|---|---|
戒告・けん責 | 口頭または文書で厳重注意を行う。けん責の場合は始末書の提出を求める。 | 軽 |
減給 | 賃金から一定額を差し引く処分(労働基準法で上限が定められている)。 | ↓ |
出勤停止 | 一定期間、従業員の就労を禁止する。その期間は無給となることが多い。 | ↓ |
降格 | 役職や職位、職能資格を引き下げる処分。 | ↓ |
諭旨解雇 | 一定期間内に退職願の提出を促し、提出があれば退職扱い、なければ懲戒解雇とする。 | ↓ |
懲戒解雇 | 雇用契約を一方的に解約する処分。退職金の不支給・減額を伴うことが多い。 | 重 |
退職金や再就職への影響
懲戒解雇となった場合、退職金が全額不支給または減額となるケースが一般的です。また、懲戒解雇は「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」に該当し、雇用保険の失業給付でも不利な扱いを受ける可能性があります。さらに、転職活動時の履歴書や面接で説明が求められることも多く、再就職にも深刻な影響を与えます。
このように、懲戒解雇は従業員の生活に甚大な影響を及ぼすため、法律は厳格な要件を定めています。
懲戒解雇が有効となる3つの要件と実務上の落とし穴
懲戒解雇を適法に行うためには、労働契約法15条(懲戒)と16条(解雇)の両方の要件を満たす必要があります。実務では、以下の3つの要件が重要なポイントとなります。
【要件1】就業規則の整備は絶対条件
懲戒解雇を行うには、就業規則に具体的な懲戒事由と懲戒処分の種類(懲戒解雇を含む)が明記されていることが必須です。最高裁判例(フジ興産事件)でも、「あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事項を定めておくことを要する」と判示されています。
就業規則には、例えば以下のような事由を明記します。
- 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき
- 故意または重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき
- 素行不良で社内の秩序または風紀を乱したとき
- 業務上横領など、会社に対する重大な背信行為をしたとき
なお、就業規則は従業員への周知が必要です(労働基準法106条)。就業規則を社内掲示する、書面で交付する、社内イントラネットで閲覧可能にするなど、適切な方法で周知しましょう。
【要件2】客観的合理性と社会通念上の相当性
就業規則に懲戒事由が定められていても、その事由に該当する客観的な理由があること、そして懲戒解雇という最も重い処分が社会通念上相当であることが求められます。
沖縄県内で実際にあった事例を見てみましょう。ある造船会社で、購買課長が上司からパソコンで管理している棚卸データの提出を求められ、すぐに提出しなかったことを理由に懲戒解雇されました。しかし、労働局のあっせん手続きでは、会社側は懲戒解雇を撤回し、解決金を支払うことで和解に至りました。
この事例が示すように、データ提出の遅れという行為が、直ちに懲戒解雇に相当するほど重大とは判断されにくいのです。裁判例でも、懲戒解雇が有効とされるのは、業務上横領、長期間の無断欠勤など、非常に悪質なケースに限られています。
【要件3】改善指導と弁明機会の重要性
懲戒解雇の相当性を判断する際、会社が従業員に対して十分な改善指導を行ったか、弁明の機会を与えたかという適正手続きの観点も重視されます。
いきなり懲戒解雇を行うのではなく、まずは口頭注意、文書による警告、軽い懲戒処分など、段階的な対応を行い、それでも改善が見られない場合に初めて懲戒解雇を検討するのが適切です。また、懲戒解雇を決定する前に、本人に弁明の機会を与え、その内容を記録に残すことも重要です。
トラブルを防ぐために企業が今すぐできること
懲戒解雇をめぐるトラブルを防ぐため、以下の3つのポイントを押さえましょう。
安易な懲戒解雇は避け、専門家に相談を
懲戒解雇が無効と判断された場合、会社は従業員の復職を認めざるを得なくなり、解雇期間中の賃金をさかのぼって支払う必要が生じます。さらに、多額の解決金の支払いを求められたり、紛争が長期化して業務に支障が出たりするリスクもあります。
懲戒解雇を検討する際は、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談し、法的要件を満たしているか、十分な証拠があるかを確認することが不可欠です。
証拠の確保と改善指導の記録化
従業員の非違行為について、日時、場所、具体的な行為内容、目撃者などを詳細に記録しておきましょう。また、改善指導を行った際も、指導内容、本人の反応、その後の改善状況などを文書化し、証拠として残すことが重要です。
沖縄県内の企業様では、「口頭で何度も注意したが記録がない」というケースが散見されますが、これでは後に紛争となった際、会社側の主張を証明することが困難になります。
就業規則の定期的な見直しと周知徹底
労働関係法令は頻繁に改正されます。就業規則を定期的に見直し、最新の法令に適合しているか確認しましょう。また、新入社員研修や管理職研修などの機会を利用して、懲戒制度について従業員に周知することも大切です。
まとめ——適切な労務管理で企業と従業員の双方を守る
懲戒解雇は、就業規則の整備、客観的合理性と社会通念上の相当性、適正な手続きという3つの要件を満たして初めて有効となります。安易な懲戒解雇は、会社に大きな法的リスクをもたらします。
今日から始められる3つのステップ:
- 就業規則を確認する — 懲戒事由と懲戒処分の種類が明記されているか、従業員への周知方法は適切かをチェックしましょう。
- 改善指導の記録を習慣化する — 従業員の問題行動に対する注意指導は、必ず日時・内容・本人の反応を記録に残しましょう。
- 専門家との連携体制を整える — いざというときに相談できる社会保険労務士や弁護士を確保しておくことが、予防的労務管理の第一歩です。
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つばさ社会保険労務士事務所では、沖縄県内の中小企業様を対象に、懲戒処分を含む労務管理全般のご相談を承っております。
「この事案で懲戒解雇は可能か?」「就業規則を見直したい」など、どのようなことでもお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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