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沖縄の中小企業必見!安全衛生管理体制の法定義務と選任の手順

「うちの会社、従業員が増えてきたけど、安全管理者とか産業医とか、何をどう選任すればいいの?」「労働基準監督署から報告が必要って聞いたけど、期限はいつまで?」――沖縄県内の中小企業経営者から、こうしたご相談をいただくことが少なくありません。

労働安全衛生法では、事業場の規模や業種に応じて、安全衛生管理者等の選任が義務付けられています。選任義務を怠ると、行政指導や罰則の対象となるだけでなく、従業員の安全と健康を守る体制が脆弱になってしまいます。

この記事では、沖縄県内の中小企業経営者・人事担当者の皆さまに向けて、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理体制の基本と、選任報告の実務ポイントを分かりやすく解説します。読み終えた後は、自社に必要な管理者が明確になり、具体的な対応ができるようになります。


従業員数に応じた安全衛生管理者の選任義務とは

労働安全衛生法では、従業員の安全と健康を守るため、事業場ごとに一定の管理者等を配置することが義務付けられています。しかし、「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」「産業医」など、似たような名称が多く、どれを選任すべきか混乱しがちです。

 

総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医の違い

まず、それぞれの管理者等の役割を整理しましょう。

 

総括安全衛生管理者は、一定規模以上の事業場で、安全衛生管理を統括する責任者です。工場長や事業場のトップなど、事業の実施を統括管理する権限を持つ者を選任します。この管理者は、安全管理者や衛生管理者を指揮し、労働災害防止のための措置全般を統括します。

 

安全管理者は、製造業や建設業など、労働災害のリスクが比較的高い業種で選任が義務付けられる専門家です(その事業場に専属の者)。作業場の巡視、設備の点検、安全教育の実施など、安全に関する技術的事項を管理します。安全管理者になるには、大学で理科系を卒業後2年以上、高校卒業後4年以上など、一定の実務経験と厚生労働大臣が定める研修の修了が必要です。

 

衛生管理者は、すべての業種で、従業員数50人以上の事業場に選任義務があります(その事業場に専属の者)。健康診断の実施、作業環境の測定・改善、メンタルヘルス対策など、衛生に関する技術的事項を管理します。衛生管理者免許(第一種・第二種)を取得した者や、医師、労働衛生コンサルタントなどが選任できます。

 

産業医は、従業員数50人以上の事業場で選任が必要な医師です。健康診断結果に基づく措置、長時間労働者への面接指導、作業環境の維持管理への助言など、医学的な専門知識に基づいて労働者の健康管理を行います。産業医には、労働者の健康管理を行うのに必要な研修(日本医師会の産業医学基礎研修など)を修了した医師を選任します。

沖縄県内の中小企業では、特に衛生管理者と産業医の選任義務を見落としがちです。従業員数が50人に達した時点で、直ちに選任と報告の手続きが必要となります。

 

業種・規模別に見る選任義務の早見表

ご自身の事業場でどの管理者等の選任が必要か、以下の早見表で確認してください。

業種分類 従業員数 選任が必要な管理者等
製造業・建設業・運送業等
(労働安全衛生法施行令2条1号・2号)
100人以上 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医
製造業・建設業・運送業等
(労働安全衛生法施行令2条1号・2号)
50~99人 安全管理者、衛生管理者、産業医
製造業・建設業・運送業等
(労働安全衛生法施行令2条1号・2号)
10~49人 安全衛生推進者
その他の業種
(労働安全衛生法施行令2条3号)
1,000人以上 総括安全衛生管理者、衛生管理者、産業医
その他の業種
(労働安全衛生法施行令2条3号)
50~999人 衛生管理者、産業医
その他の業種
(労働安全衛生法施行令2条3号)
10~49人 衛生推進者

この表からわかるように、沖縄県内で飲食業、小売業、サービス業など「その他の業種」を営む事業場では、従業員数50人以上で衛生管理者と産業医の選任義務が発生します。一方、製造業や建設業では、従業員数50人以上で安全管理者の選任も必要です。

なお、従業員数には、正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣労働者(派遣先でカウント)も含まれます。「常時使用する労働者」として、日雇いを除くすべての労働者が対象となる点に注意が必要です。

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選任義務を怠った場合のリスクと実務上の注意点

安全衛生管理者等の選任義務は、単なる形式的な手続きではありません。選任を怠ると、法的リスクだけでなく、従業員の安全と健康を守る体制そのものが機能しなくなります。

 

選任報告は「14日以内」―遅れた場合の罰則

労働安全衛生法では、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医の選任事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ報告することが義務付けられています。

たとえば、従業員数が50人に達した時点で、14日以内に衛生管理者と産業医を選任し、選任報告書を労働基準監督署に提出しなければなりません。この期限を守らなかった場合、労働安全衛生法違反として、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

実際に、沖縄県内の飲食業を営むA社(従業員数55名)では、衛生管理者の選任義務があることを知らず、労働基準監督署の調査で初めて指摘を受けました。急遽、有資格者を確保し選任報告を行いましたが、遅延による行政指導の記録が残りました。このように、選任義務を知らないことは免責理由になりません。

選任報告は、厚生労働省のホームページから所定の様式をダウンロードし、必要事項を記入の上、所轄の労働基準監督署へ提出します(コピーの使用は不可)。沖縄県内の事業場は、管轄の労働基準監督署(那覇、沖縄、名護)への提出となります。

 

沖縄県内でよくある誤解:派遣社員・パート社員のカウント方法

従業員数のカウント方法について、実務上よく誤解が生じるのが、派遣社員やパートタイマーの扱いです。

派遣労働者は、派遣先の事業場で従業員数にカウントされます。たとえば、正社員40名、派遣社員15名の事業場では、合計55名として衛生管理者と産業医の選任義務が発生します。製造業のB社(従業員数120名・うち派遣社員30名)は、派遣社員を従業員数に含めずに管理者を選任していたため、実際には選任義務のある人数規模であるにもかかわらず未選任状態となっていました。

パートタイマーやアルバイトも、「常時使用する労働者」に該当する限り、従業員数に含まれます。週に数日しか勤務しない短時間労働者であっても、継続的に雇用している場合は対象となります。ただし、日雇労働者は対象外です。

このように、従業員数の算定を誤ると、選任義務があるにもかかわらず未選任の状態となり、法令違反となってしまいます。不明な点があれば、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご相談ください。

 

専属・専任・非専属の違いと実務への影響

安全管理者や衛生管理者には、「専属」であることが原則として求められます。「専属」とは、その事業場に所属している労働者であることを意味します。他の事業場と兼務することは、原則としてできません。

ただし、一定の要件を満たす場合には、例外的に他社の労働者を衛生管理者として選任できる場合があります(「その他の業種」に該当し、労働者派遣契約または委任契約により専ら常駐し、一定期間継続して職務に当たる場合など)。沖縄県内でも、複数の事業場を持つ企業グループや、分社化に伴い管理者を兼務させるケースがありますが、法令上の要件を満たしているか、慎重に確認する必要があります。

また、一定規模以上の事業場では、安全管理者や衛生管理者のうち一定数を「専任」(専らその業務に従事する者)としなければなりません。たとえば、製造業で従業員数300人以上の事業場では、安全管理者のうち1人を専任としなければなりません。専任の管理者は、他の業務と兼務せず、安全または衛生管理業務に専念します。

沖縄県内の中小企業では、総務部長が衛生管理者を兼務するなど、他の業務と兼務するケースが多く見られます。従業員数が一定規模以下であれば兼務も可能ですが、専任が必要となる規模に達した場合は、速やかに体制を見直す必要があります。


まとめ:明日から始める安全衛生管理の3ステップ

労働安全衛生法に基づく安全衛生管理体制の整備は、従業員の安全と健康を守るための最も基本的な取り組みです。法令遵守はもちろん、従業員が安心して働ける職場環境を作ることが、企業の持続的な成長につながります。

今日から始められる3つのステップ:

  1. 自社の従業員数を正確に把握する
    正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、派遣労働者(派遣先の場合)を含めた「常時使用する労働者数」を確認しましょう。従業員数が50人、100人、1,000人などの節目に達している場合は、選任義務が発生している可能性があります。
  2. 必要な管理者等を確認し、有資格者を確保する
    本記事の早見表を参考に、自社で選任が必要な管理者等を確認してください。衛生管理者免許や産業医の資格を持つ者が社内にいない場合は、資格取得の支援や、外部の専門家との契約を検討する必要があります。
  3. 選任後は14日以内に労働基準監督署へ報告する
    選任事由が発生した日から14日以内に、所定の様式で選任報告を行いましょう。報告様式は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。報告が遅れると、行政指導や罰則の対象となりますので、期限を厳守してください。

労働安全衛生法は複雑で、実務上の判断に迷うことも少なくありません。沖縄県内の中小企業の実情に応じた適切な対応をサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

 

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このコラムを書いている人

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玉城 翼(たまき つばさ)

社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士

1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。

2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。

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