· 

労働契約で扶養認定が変わる?令和8年4月施行の新基準を沖縄の社労士が解説

「パート従業員の扶養手続きで、毎回収入見込みの判断に迷う」「時間外労働が発生した月は扶養から外れるのか心配」―こうしたお悩みをお持ちの人事担当者の方は少なくありません。令和8年4月から、健康保険の被扶養者認定における年収判定の方法が変わります。この記事では、新しい基準の内容と沖縄県内企業が押さえるべき実務対応のポイントを、社会保険労務士の視点から分かりやすく解説します。読み終えた後には、自社で必要な準備が明確になり、従業員への説明もスムーズに行えるようになります。

 

令和8年4月から変わる被扶養者認定の新基準とは

令和8年4月1日以降、健康保険の被扶養者(扶養家族)として認定する際の年収判定方法が変更されます。これは厚生労働省が令和7年10月1日に発出した通知に基づくもので、就業調整対策の一環として、扶養認定の予見可能性を高めることを目的としています。

 

従来の年収判定方法との違い

これまでの年収判定では、過去の収入実績や現時点での収入、将来の見込みなどから総合的に判断し、時間外労働手当を含めた「今後1年間の収入見込み」により判定していました。そのため、繁忙期に時間外労働が増えると「年収130万円を超えるかもしれない」という不安から、従業員が就業調整を行うケースが多く見られました。

新基準では、労働契約で定められた基本的な賃金から見込まれる年収が130万円未満であれば、原則として被扶養者に該当するという明確な判定基準が導入されます。重要なポイントは、労働契約に明確な規定がない時間外労働手当などは、扶養認定時の年収計算に含めないということです。

これにより、労働条件通知書に記載された時給・労働時間・日数等を基に年収を算出し、その金額が基準額未満であれば扶養認定が可能となります。従業員にとっては「契約時点で扶養に入れるかどうかが分かる」という予見可能性が格段に向上します。

 

沖縄県内企業への影響と注意点

沖縄県内の企業、特に観光業や小売業など、繁閑期による労働時間の変動が大きい業種では、この新基準の影響を受けやすいと考えられます。例えば、観光シーズンには時間外労働が増加するものの、労働契約上の基本給与が年収130万円未満であれば、繁忙期の残業代によって一時的に年収が増えても、扶養認定が継続されることになります。

 

ただし、注意すべき点もあります。新基準は「給与収入のみ」の場合に適用されるため、年金収入や事業収入など他の収入がある従業員については、従来通りの判定方法となります。また、労働契約の内容が変更された場合(時給や労働時間の変更など)には、その都度、扶養認定の確認が必要になります。

 

労働契約書による年収判定の具体的な手順

新基準による扶養認定を適切に行うためには、労働契約の内容を正確に把握し、必要な書類を整備することが重要です。

 

労働条件通知書で確認すべき項目

扶養認定の手続きでは、労働基準法第15条に基づいて交付される「労働条件通知書」等の労働契約内容が確認できる書類の提出が必要になります。この書類から以下の項目を確認し、年収見込額を算出します。

確認すべき主な項目は、基本給(時給・日給・月給)、所定労働時間、所定労働日数、諸手当(通勤手当、役職手当など労働契約で定められたもの)、賞与の有無と金額です。これらの情報を基に、年間の収入見込額を計算します。

例えば、時給1,000円、週20時間、年間48週勤務という契約の場合、年収見込額は「1,000円×20時間×48週=96万円」となり、130万円未満のため扶養認定の対象となります。

当事務所でこれまで対応してきた事例では、沖縄県内の小売業で働くパート従業員の方が、時給1,000円、週24時間の契約で年収見込額が約125万円となり、問題なく扶養認定を受けられたケースがありました。仮に繁忙期に月10時間程度の時間外労働が発生し、年間で約12万円の収入増が見込まれ、年間収入が130万円を超える場合でも、新基準では時間外手当を年収計算に含めないため、扶養認定が継続されることになります。

 

時間外労働と年収基準の関係

新基準における最大のポイントは、労働契約に明確な規定がない時間外労働手当は年収計算に含まれないということです。労働条件通知書等に「所定労働時間を超える労働の有無」という項目がありますが、ここに具体的な時間外労働時間数や金額が記載されていない場合、時間外手当は扶養認定時の年収には算入されません。

これは、労働契約段階では時間外労働の発生を予見することが難しいという実態を反映したものです。ただし、労働契約で「毎月〇時間の固定残業代を含む」などと明記されている場合は、その金額は年収計算に含める必要があります。

 

また、被扶養者認定後の年次確認において、実際の年収が一時的に130万円を超えていた場合でも、その超過が臨時収入(時間外労働手当など)によるもので、社会通念上妥当な範囲に留まる場合は、扶養認定を取り消す必要はありません

項目 従来の判定方法 新基準(令和8年4月~)
判定基礎 過去・現在・将来の収入見込みから総合判断 労働契約書の内容に基づく収入見込み
時間外労働手当 見込みとして年収に含める 労働契約に明記がなければ含めない
必要書類 収入証明書、課税証明書など 労働条件通知書等+「給与収入のみ」の申立て
予見可能性 実際に働いてみないと判断が難しい 契約段階で扶養可否の判断が可能
年次確認での取扱い 実収入が基準超過で扶養解除 臨時的な超過は扶養継続可能

※被扶養者の収入が給与のみである場合。

 

企業が今すぐ準備すべき実務対応のポイント

新基準の施行まで残り約半年となりました。企業として準備すべき実務対応について、優先順位の高い順に解説します。

 

従業員への説明とコミュニケーション

まず最優先で取り組むべきは、現在扶養認定を受けているパート・アルバイト従業員への制度変更の周知です。特に「時間外労働をすると扶養から外れるのではないか」という不安から就業調整をしている従業員に対しては、新基準により安心して働けるようになることを丁寧に説明する必要があります。

説明の際は、専門用語を避け、「労働契約書に書かれている基本的なお給料の金額で判断するようになります」「繁忙期の残業代で一時的に収入が増えても、すぐに扶養から外れることはありません」といった平易な表現を心がけましょう。

また、新たに採用するパート従業員に対しては、雇用契約締結時に「この労働条件であれば扶養認定が可能です」と明確に伝えることで、安心して勤務を開始してもらえます。これは沖縄県内の企業にとって、人材確保の面でも大きなメリットとなるでしょう。

 

被扶養者資格再確認での実務対応

被扶養者の認定後、保険者(健康保険組合や全国健康保険協会)は少なくとも年1回、被扶養者の要件を満たしているかの確認を実施します。この年の被扶養者資格再確認においても、新基準と同様に労働条件通知書等により確認を行います。

実務上、注意すべきポイントは以下の通りです。まず、労働契約の内容に変更があった場合(時給アップ、労働時間の延長など)は、速やかに保険者へ届出を行い、扶養認定の要件を満たしているか再確認する必要があります。次に、年次確認では労働契約書の提出に加えて、実際の収入との乖離を確認するため、収入証明書や課税証明書の提出も求められる場合があります。

当事務所でサポートしている沖縄県内の企業では、被扶養者資格再確認のタイミングで労働契約書の写しと簡単な説明書を従業員に配布し、必要書類の準備をスムーズに進められるよう工夫しているケースがあります。

今後発生しうる失敗パターンとしては、労働契約の変更を保険者に届け出ないまま放置してしまうケース、労働条件通知書を交付していない、または紛失してしまっているケース、時間外労働手当を含めて年収を計算してしまい、不要な扶養解除手続きをしてしまうケースなどが考えられます。これらを回避するためには、労働契約書の適切な保管管理と、制度変更内容の正確な理解が不可欠です。

 

まとめ

令和8年4月からの被扶養者認定基準の変更により、労働契約の内容に基づく明確な年収判定が可能になります。時間外労働手当を含めない年収計算により、従業員の就業調整への不安が軽減され、企業としても安定的な人材確保が期待できます。沖縄県内の企業、特に繁閑期の変動が大きい業種にとっては、大きなメリットとなる制度改正です。

 

今日から始められる3つのステップ:

  1. 現在の労働条件通知書のフォーマットを確認し、必要な項目が網羅されているか点検する
  2. 扶養認定を受けている従業員に対し、制度変更の概要を分かりやすく説明する資料を準備する
  3. 労働契約の変更があった際の社内報告フローを整備し、保険者への届出漏れを防ぐ体制を構築する

 

📞 無料相談のご予約
労務管理でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
初回相談は無料です。


このコラムを書いている人

玉城翼の写真

玉城 翼(たまき つばさ)

社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士

1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。

2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。

▶コラム: 私が社労士になった理由