こんなお悩みはありませんか?
「休業していた社員から復職したいと連絡があったが、どう対応すればいいのか分からない」「主治医の診断書に復職可能と書いてあるが、本当に大丈夫だろうか」―このようなお悩みを抱える沖縄県内の事業主・人事担当者は少なくありません。本記事では、厚生労働省の手引きに基づく職場復帰支援の実践的な流れと、沖縄で活用できる支援体制について、社会保険労務士の視点から解説します。適切な手順を踏むことで、安全でスムーズな職場復帰を実現できます。
なぜ職場復帰支援が重要なのか
令和4年の労働安全衛生調査によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者の割合は0.6%となっています。100人規模の事業所では、毎年複数名の休業者が発生している計算です。
沖縄県内の中小企業においても、メンタルヘルス不調による休業は決して他人事ではありません。適切な職場復帰支援を行わないと、復職後の再発リスクが高まるだけでなく、事業者の安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性もあります。
一方で、計画的な復職支援を実施することで、貴重な人材の定着と、職場全体のメンタルヘルス意識の向上という二つの効果が期待できます。休業と復職は、組織の支援体制を見直す好機でもあるのです。
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職場復帰支援の5つのステップ
厚生労働省の手引きでは、職場復帰支援を以下の5つのステップで進めることが推奨されています。それぞれの段階で何をすべきか、具体的に見ていきましょう。
ステップ | 主な内容 | 実施者 |
---|---|---|
第1ステップ |
病気休業開始・休業中のケア (診断書提出、傷病手当金案内、定期連絡) |
人事担当者・管理監督者 |
第2ステップ |
主治医による復職可能判断 (診断書の提出と内容の精査) |
主治医・産業医 |
第3ステップ |
職場復帰可否の判断・支援プラン作成 (業務遂行能力の評価、配慮内容の検討) |
産業医・人事担当者・管理監督者 |
第4ステップ |
最終的な職場復帰の決定 (就業上の配慮内容の確定と通知) |
事業者(人事権者) |
第5ステップ |
職場復帰後のフォローアップ (定期面談、業務負荷の調整、再発防止) |
産業医・保健師・管理監督者 |
第1ステップ: 休業開始時から安心できる環境を
休業が始まったら、まず労働者に必要な事務手続きと復職までの流れを丁寧に説明します。特に重要なのが、傷病手当金などの経済的保障についての情報提供です。金銭的な不安があると療養に専念できないため、社会保険制度の案内は必須となります。
また、休業中も月に1回程度、人事担当者や保健師が本人の状況を確認することが望ましいとされています。ただし、治療の妨げにならないよう、主治医の意見も参考にしながら適切なタイミングで連絡を取ることが大切です。
第2ステップ: 主治医の診断書を正しく理解する
労働者から「職場復帰可能」と記載された主治医の診断書が提出されたら、次のステップに進みます。しかし、ここで注意が必要です。主治医の「復職可能」という判断は、日常生活が送れるレベルまで回復したという意味であり、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとは限りません。
そのため、産業医がいる事業場では、産業医が診断書の内容を精査し、必要に応じて主治医から追加の情報を収集します。50人未満の小規模事業場では、産業保健総合支援センターの産業医に相談することができます。
第3ステップ: 復職可否の判断と支援プラン作成
このステップが職場復帰支援の核心部分です。産業医や人事担当者、管理監督者が集まり、以下の情報を収集・評価します。
収集すべき情報:
- 本人の復職に対する意思と就業意欲
- 治療状況と病状の回復程度(通院頻度、服薬状況、副作用の有無)
- 生活リズムの回復状況(適切な睡眠、日中の活動、疲労の回復具合)
- 業務遂行能力(通勤可能か、勤務時間持続できるか、集中力は戻っているか)
- 職場環境との適合性
これらを総合的に判断し、復職が可能と判断された場合、個別の職場復帰支援プランを作成します。プランには、復職日、短時間勤務などの就業上の配慮、残業制限、フォローアップの方法などを具体的に定めます。
沖縄県内企業の実践事例: 中部地区の製造業A社(従業員80名)では、うつ病で4か月休業した社員に対し、試し出勤制度を活用しました。まず週3日・1日6時間の勤務からスタートし、2週間ごとに産業医面談を実施。本人の疲労度を確認しながら段階的に勤務日数と時間を増やし、3か月後に通常勤務へ移行しました。現在は再発なく安定して就労しています。
📄 事例資料ダウンロード: 治療と仕事の両立支援実践ヒント集(厚生労働省) 両立支援の実践者の良好事例をもとに作成。すべて網羅的にできる必要はなく、自社で無理のない範囲内で実践していくことが重要ヒントが掲載されています。
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第4ステップ: 最終決定と本人への通知
第3ステップでの検討を踏まえ、事業者が最終的な職場復帰の決定を行います。産業医は「職場復帰に関する意見書」を作成し、就業上の配慮について医学的見地から意見を述べます。
この意見書をもとに、人事権者が復職の可否と配慮内容を決定し、本人に書面で通知します。同時に、配慮内容については主治医にも情報提供することで、医療と職場の連携が円滑になります。
第5ステップ: 復職後のフォローアップが再発を防ぐ
復職後は、定期的なフォローアップが欠かせません。最初の1か月は週1回、その後は月1回程度、産業医や保健師が面談を行い、以下の点を確認します。
- 症状の再発や新たな問題の兆候はないか
- 勤務状況と業務遂行能力は適切か
- 就業上の配慮は計画通り実施されているか
- 通院状況と治療の継続状況
フォローアップの結果、問題があれば支援プランを見直します。順調であれば、段階的に就業制限を解除していきます。目安として、フルタイム勤務で3か月程度安定していれば、通常の就業に戻すことを検討できます。
沖縄県内で活用できる支援リソース
産業保健総合支援センターを最大限活用する
50人未満の小規模事業場では、産業医の選任義務がないため、専門的な助言を得にくいという課題があります。そこで活用したいのが、産業保健総合支援センター沖縄です。
特に、産業医がいない事業場でも、センターの産業医に診断書の精査や復職可否の判断について相談できる点は大きなメリットです。事前予約制ですので、早めの連絡をお勧めします。
よくある失敗パターンと回避策
実際の職場復帰支援では、以下のような失敗が起こりがちです。事前に知っておくことで、リスクを回避できます。
失敗例1: 主治医の診断書をそのまま受け入れてしまう
主治医の「復職可能」という判断だけで復職させたところ、業務遂行能力が十分に回復しておらず、1か月で再休業となってしまった。
回避策: 産業医(またはセンターの産業医)による業務適合性の精査を必ず実施する。通勤訓練や試し出勤を活用し、実際の業務遂行能力を確認してから復職を決定する。
失敗例2: いきなりフルタイム勤務に戻してしまう
本人の希望通りフルタイムで復職させたが、過負荷となり2週間で症状が悪化。再び長期休業となった。
回避策: 短時間勤務や軽作業から始め、2週間から1か月ごとに負荷を段階的に増やしていく。本人が「大丈夫」と言っても、客観的な疲労度の評価を優先する。
失敗例3: フォローアップを怠ってしまう
復職後のフォローアップを行わず放置したため、再発の兆候に気づけなかった。
回避策: 復職後3か月間は特に注意深く観察し、定期的な産業医面談を実施する。管理監督者にも日常的な様子の変化に気を配るよう依頼する。
まとめ: 今日から始める3つのアクション
要点の3行まとめ:
- 職場復帰支援は5つのステップを踏んで体系的に進める
- 主治医の診断だけでなく産業医による業務適合性の精査が不可欠
- 沖縄県内の公的支援(産業保健総合支援センター)を積極的に活用する
明日から取り組むべき具体的アクション:
- 就業規則の整備: 就業規則に職場復帰支援の手順を明記する。規程例は厚生労働省のウェブサイトでも公開されています。
- 相談窓口への連絡: 産業保健総合支援センターに電話し、初回相談の予約を入れる。
- 社内体制の確認: 管理監督者向けにメンタルヘルス研修を計画し、職場全体で復職者を支える体制を整える。
職場復帰支援は、一人の労働者を支えるだけでなく、組織全体のメンタルヘルス対策を強化する契機となります。適切な手順を踏むことで、安全で円滑な復職を実現し、貴重な人材の定着につなげることができます。
📞 無料相談のご予約 つばさ社会保険労務士事務所では、貴社の実情に合わせた職場復帰支援プログラムの策定をサポートいたします。沖縄の企業文化を理解した社労士が、予防的な労務管理の視点からご提案いたします。初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。 |
このコラムを書いている人

玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
1982年沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
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