沖縄県では毎年のように最低賃金が引き上げられており、物価高騰も相まって、企業経営を取り巻く環境は決して容易ではありません。その中で、従業員の労働環境を改善し、事業の健全な発達を目指すために「雇用関係助成金」の活用を検討されている経営者様も多いことでしょう。
しかし、助成金の申請には複雑な手続きが伴い、「自社の労務管理が本当に要件を満たしているのか」「気づかないうちに法令違反をしていないか」といった不安や悩みを抱えてはいないでしょうか。
本記事では、雇用関係助成金の申請において審査に影響を与える具体的な事例や、日々の労務管理で見直すべきポイントについて解説します。
雇用関係助成金の基本と、審査でつまずきやすい落とし穴
雇用関係助成金を受給するためには、各助成金特有の要件を満たすだけでなく、共通の支給要件を満たす必要があります 。例えば、支給申請日および支給決定日の時点で雇用保険被保険者が存在する適用事業所の事業主であることや、定められた申請期間内に申請を行うことなどが挙げられます 。
しかし、日々の業務に追われる中で、労務管理の細部にまで目が行き届かず、いざ申請しようとした際に問題が発覚するケースは少なくありません。審査には内容の確認が必要なため、追加書類の提出を求められて時間がかかったり、場合によっては不支給となってしまう事案もあります 。
ここでは、実際の審査において影響が出やすい代表的な事例をご紹介します。
1. 雇入れ日と雇用保険加入日のズレ
雇用関係助成金では、原則として雇入れの初日(試用期間も含みます)から雇用保険被保険者となっていることが求められます 。実務上、手続きが遅れてしまい、実際の入社日と雇用保険の取得日が相違しているケース は非常に多く見受けられます。
2. 雇用契約と実際の勤務実態の相違
雇用契約書(雇入通知書)に記載された所定労働時間、休日、賃金形態などの労働条件と、実際の勤務実態が異なっているケースです 。雇用契約上の所定労働時間が不明確である場合などは、助成金の支給ができないことがあります 。
3. 法定労働関係帳簿や会計帳簿の不備
労働者を雇用する事業主には、労働基準法により法定労働関係帳簿(労働者名簿、出勤簿、賃金台帳)の作成が義務付けられています 。これらの法定帳簿や、賃金支払いの裏付けとなる会計帳簿(総勘定元帳など)が正しく整備されていないケース は、申請の大きな壁となります。
また、残業代などの未払いも注意すべきポイントの一つです。賃金支給日に給与が支払われていない場合や、実際の残業時間に対する残業手当、深夜手当が正しく支払われていないケース(労働基準法違反行為)です 。
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1日の労働時間が8時間を超えた場合、または週の法定労働時間を超えた場合は、その超過時間分(25%増)の割増賃金が必要です 。
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午後10時から午前5時までの間に勤務させた場合は、深夜手当(25%増)が必要です 。
不正受給や法令違反がもたらす重大な経営リスク
上記のような不備を「少し直せば大丈夫だろう」と安易に自己判断してしまったり、事実と異なる書類を作成して申請してしまうことは、企業にとって致命的なリスクとなります。
雇用関係助成金について不正受給があった場合、次のように極めて厳しい措置が取られます 。
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支給前であれば不支給となります 。
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支給後に発覚した場合は、支給された助成金に加え、延滞金および違約金を返還しなければなりません 。
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処分決定日から5年間は、雇用関係助成金の申請ができなくなります 。
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事業主名等が公表されることがあります 。
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悪質な場合は事業主が刑事告発され、詐欺罪で実刑判決を受けたケースも存在します 。
また、偽りその他不正の行為により助成金の不支給措置がとられている事業主等や、支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に労働関係法令の違反があった事業主は、そもそも助成金を受給できない事業主に該当します 。
沖縄県は全国と比べても労働基準法などの違反率が比較的高く、労働基準監督署への申告件数も増加傾向にあります。ちょっとした労務管理の甘さが法令違反とみなされ、助成金が受けられないばかりか、企業としての信用を大きく損なうことになりかねません。「専門家へ依頼するのはコストがかかる」と思われるかもしれませんが、適切な労務管理に基づく適法な事業運営は、重大なリスクを回避し、従業員が安心して働ける環境を作るための重要な「投資」です。
健全な企業成長のための第一歩として
雇用関係助成金は、国が企業の労働環境改善や従業員の福祉向上を後押しするための制度です。そのため、制度を適正に活用するためには、ベースとなる「正しい労務管理」が必要不可欠です。
「自社の就業規則は現在の実態に合っているか」「残業代の計算方法は正しいか」「法定帳簿は正しく備え付けられているか」など、助成金を検討し始めたそのタイミングこそが、自社の労務環境を見直し、より強固な組織を作る絶好の機会です。
些細な疑問や不安でも構いません。トラブルを未然に防ぎ、従業員と共に成長できる企業基盤を作るために、まずは一度、専門家にご相談ください。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



