「去年と同じつもり」が、一番のリスクかもしれません
「助成金は以前に申請したことがある。要件も大体わかっている」そう思っていた経営者様が、制度改正に気づかないまま申請タイミングを逃してしまったというご相談は、決して珍しいことではありません。
雇用保険法施行規則に基づく各種助成金は、毎年度見直しが行われます。令和8年4月1日より施行される今回の改正は、これまでで特に改定範囲が広く、要件の新設・廃止・助成額の変更が同時に行われそうです。観光・サービス業を中心とした第3次産業が経済を支える沖縄においては、人材確保と両立支援に関わる助成金を適切に活用できるかどうかが、従業員の定着率や採用競争力に直結します。
このコラムでは、特に沖縄の事業者様に関係が深いと考えられる改正ポイントを5つに絞り、専門家の視点から整理してお伝えします。最後まで読み進めることで、「うちは対応できているか」という問いへの答えが見えてくるはずです。
※以下の内容はパブリックコメント段階の案に基づくものです。最終決定や支給要領・Q&Aにより運用が調整される可能性があります。
参考:雇用保険法施行規則等の一部を改正する省令案に対する御意見の募集について
令和8年度の主な改正ポイント
① 中途採用拡大コース:「賃上げ」が必須要件になります
早期再就職支援等助成金の中途採用拡大コースは、令和8年度より助成の仕組みが根本的に変わります。これまでは1事業所あたりの定額(50万円または100万円)で支給されていましたが、改正後は中途採用者1人あたりの支給(20万円)に移行します。それと同時に、採用した中途採用者全員の賃金を「雇い入れ前と比べて5%以上上昇」させることが必須要件となります。
沖縄では若年層の離職率が高く、外部からの中途採用に頼る場面も多い傾向があります。採用後の処遇設計を見直さないまま申請しようとすると、要件を満たせないケースが出てくる可能性がありますので、採用計画と給与制度をあわせて確認することをお勧めします。
② 65歳超雇用推進助成金:複数回の申請が可能になります
これまで「1事業主あたり1回限り」とされていた65歳超継続雇用促進コースの支給制限が撤廃されます。定年の段階的な引き上げや継続雇用制度の順次導入など、複数の措置を時間をかけて講じてきた事業主でも、改めて助成を受けられる可能性が生まれます。
また、66歳以上への定年引き上げや希望者全員を対象とする継続雇用制度を導入した場合の助成額は、最大240万円まで引き上げられます。高齢者雇用の拡充に取り組みたいとお考えの経営者様にとって、活用を検討する価値が高まっている制度です。
③ キャリアアップ助成金(正社員化コース):情報公表で加算20万円が新設
有期契約労働者の正社員転換に取り組む事業主を対象としたキャリアアップ助成金に、新たな加算措置が設けられます。正社員転換に関する制度の概要や転換実績を、自社のウェブサイトまたは厚生労働省のウェブサイトで公表した事業主に対し、1事業所あたり1回限りで20万円(大企業は15万円)が加算されます。
「情報を公開することがそのまま加算の対象になる」という点が今回の改正の特徴です。これまで正社員化を進めてきた事業者様であれば、要件を満たす可能性がありますので、ぜひ確認してみてください。
④ 育児・介護両立支援の拡充:対象範囲が広がります
出生時両立支援コース(男性の育児休業促進)について、「男性育休取得率の上昇等」に関しては、業種を問わず常時雇用する労働者が300人以下の事業主が対象となります。また、事実婚状態にある男性労働者の育児休業も取得率の算定対象に含まれることが明記されます。
介護離職防止支援コースについても見直しがあり、これまで制度メニューに含まれていた「所定外労働の制限制度」と「深夜業の制限制度」が削除される一方、介護休暇の有給化については独立した助成類型として整理され、一定の要件を満たす場合に30万円または50万円が支給されます。
沖縄は家族経営の事業者が多く、育児や介護と仕事の両立が課題になりやすい環境です。制度の変化を正確に把握し、従業員が安心して働き続けられる職場づくりに結びつけることが大切です。
⑤ 45歳以上を対象とした新訓練コースが創設されます
人材開発支援助成金に「中高年齢者実習型訓練」が新設されます。45歳以上の労働者を対象に、OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練を実施した事業主に対して助成が行われるもので、これまで対象外とされていた年齢層のスキルアップを後押しする制度です。
訓練修了後に賃金を5%以上引き上げた場合には助成率の優遇も受けられます。中高年の従業員が多い職場や、定着を促すための人材育成に取り組みたい経営者様にとって、要件を確認する価値がある制度といえます。
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自社が活用できる助成金を相談する「知らなかった」では取り返せないリスクがあります
助成金制度の改正で特に注意が必要なのは、廃止や要件強化が経営計画に影響するという点です。たとえば、令和7年度限りで廃止される助成金も今回の改正に含まれており、今年度中に申請を完了しなければ受給の機会が失われます。UIJターンコースや地域雇用開発コースの一部暫定措置がこれに当たります。
また、中途採用拡大コースのように「賃上げ要件」が新たに加わるケースでは、採用後に「要件を満たしていなかった」と気づいても、給与をさかのぼって変更することはできません。制度の理解と実際の採用・処遇設計を連動させることが、助成金を適切に活用するうえでの前提条件です。
さらに、助成金申請には支給申請期間が定められており、期限を過ぎると支給を受けられません。「制度は知っていたが、申請期限を逃した」というケースも実務上は多く見られます。年間を通じてスケジュールを管理し、必要な書類を整備しておくことが欠かせません。
なお、助成金の受給はあくまで「要件を満たした場合」に行政が判断するものです。「確実に受給できる」といった情報には十分ご注意ください。適切な要件確認と書類整備のうえで、受給の可能性を丁寧に検討することが専門家の役割です。
今から始める、令和8年度助成金への対応ステップ
まず確認していただきたいのは、今後申請予定の助成金が、令和8年度の改正によってどのような影響を受けるかという点です。要件が変わっていれば、計画の修正が必要になります。
次に、令和7年度限りで廃止される制度について、申請の余地がないかを早急に確認してください。廃止前の駆け込み申請は、焦りによるミスにつながりやすいため、専門家と要件を精査したうえで判断することをお勧めします。
そして、今回新設・拡充された制度について、貴社の雇用計画や人材育成の方向性と照らし合わせてみてください。助成金はあくまで「やるべきことをやったうえでの後押し」です。採用・定着・育成の取り組みを先に設計し、それに合致する助成金を活用するという順序が、長期的に見て最も安定した使い方になります。
令和8年度の改正は広範囲にわたるため、全体像を一から整理するには相当の時間と専門知識が必要です。沖縄の労働環境に精通した社会保険労務士に早めにご相談いただくことで、貴社の状況に合った情報を効率よく得ることができます。
沖縄の労務管理・就業規則見直しのご相談なら
令和8年度の改正内容を踏まえ、貴社が受給要件を満たす可能性のある助成金を一緒に整理します。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



