「うちの従業員は大丈夫」その思い込みが、最大のリスクかもしれません

 

観光・サービス業が経済の根幹を担う沖縄では、接客の最前線で働く従業員が日々、大きな精神的負荷を受けています。繁忙期の長時間労働、外国人観光客への対応、そしてコロナ禍以降に急増したカスタマーハラスメント。表面上は明るく振る舞っていても、心の中では限界に近い状態で出勤しているスタッフが、貴社にもいるかもしれません。

厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査」によれば、メンタルヘルス不調により1か月以上休業した労働者がいた事業所は全体の12.8%に上ります。また、精神障害の労災請求件数は令和6年度に3,780件と過去最多を更新しており、増加の一途をたどっています。「うちは関係ない」という認識は、もはや通用しない時代になっています。

 


法改正で変わる!今、経営者が押さえるべきメンタルヘルス対策の全貌

 

ストレスチェックが50人未満の事業場にも義務化へ

これまでストレスチェックの実施義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に限られていました。しかし令和7年に労働安全衛生法の改正法が公布され、50人未満の事業場にも、ストレスチェックおよび高ストレス者への医師面接指導の実施が義務付けられることになりました。施行日は「公布の日から3年以内の政令で定める日」とされており、その時期は想像以上に早く到来する可能性があります。今のうちから実施体制を整えておくことが、スムーズな対応につながります。

 

治療と仕事の両立支援が事業者の努力義務に

令和8年4月1日から、職場における「治療と仕事の両立」を促進するために必要な措置を講じることが、事業者の努力義務となりました。メンタルヘルス不調により休職した従業員が職場に戻るプロセスを、法的な裏づけをもって支援する仕組みを整える必要があります。

 

カスタマーハラスメント対策も事業主の義務に

 沖縄の経営者様にとって、特に注目いただきたいのがこの点です。労働施策総合推進法の改正により、カスタマーハラスメント(顧客等の言動による就業環境の侵害)を防止するための雇用管理上の措置を講じることが、事業主の義務となります。施行は公布日(令和7年6月11日)から1年6か月以内の政令で定める日とされています。接客業が中心の沖縄においては、この改正が直接的な実務対応を迫ることになるでしょう。

対応が後手に回ると、何が起きるか

法的義務への対応が遅れた場合、最初に生じるのは行政からの指導リスクです。労働基準監督署による調査において、ストレスチェックの未実施が確認された場合、是正勧告の対象となり得ます。それ以上に深刻なのが、従業員のメンタルヘルス不調が労災として認定されるケースです。

精神障害の労災認定には、業務による強い心理的負荷が認められることが要件の一つとされています。パワーハラスメントや長時間労働が起因と判断された場合、事業者は損害賠償請求にさらされる可能性があります。また、こうした事案が表面化すれば、採用難が慢性的な課題である沖縄の労働市場において、企業イメージへのダメージは計り知れません。

さらに見逃せないのが、休業に伴うコストです。経験豊富なスタッフが長期休業に入れば、その穴を埋めるための採用・教育コストが発生します。予防的なメンタルヘルス対策にかかる費用は、事後対応のコストと比べれば、はるかに小さなものです。

 


まず取り組むべき「4つのケア」の実践ステップ

厚生労働省の指針では、職場のメンタルヘルス対策として「4つのケア」の継続的・計画的な実施が求められています。それぞれの内容をご自身の職場に当てはめながら確認してみてください。

一つ目は「セルフケア」です。従業員一人ひとりが自分のストレスに気づき、適切に対処できるよう、事業者側から正しい知識と情報を提供することが重要です。二つ目は「ラインによるケア」で、管理監督者が職場環境の改善や部下からの相談対応を担う仕組みを整えることを指します。三つ目が「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、そして四つ目が「事業場外資源によるケア」です。後者については、沖縄産業保健総合支援センターが無料で事業者向け相談を受け付けており、積極的に活用いただける資源です。

那覇市内のある飲食業の経営者様は、繁忙シーズンが終わったタイミングで全従業員を対象にストレスチェックを実施しました。結果として高ストレス者の早期把握ができ、医師への面接指導へ繋げることで、休職に至るケースを未然に防いだという事例が報告されています。規模の大小を問わず、継続的な取り組みが現場を守ります。

 


職場復帰支援の仕組みを今から整えておく

心の健康問題で休業した従業員が職場に戻る際のプロセスを、あらかじめ「職場復帰支援プラン」として整備しておくことが重要です。厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、病気休業開始から職場復帰後のフォローアップまで、5つのステップが示されています。

就業規則や休職規定がこの流れに対応した内容になっているか、今一度ご確認ください。主治医・産業医・人事担当・管理職の連携が図れる体制を整えておくことが、従業員の円滑な復職と職場全体の安定につながります。

 


沖縄の経営者様へ──専門家のサポートを上手に活用してください

メンタルヘルス対策は、ストレスチェックの実施だけで完結するものではありません。就業規則への復職規定の整備、衛生委員会の設置・運営、管理職へのラインケア研修、ハラスメント防止規程の策定など、複数の施策を組み合わせることで、はじめて実効性のある対策となります。

 

「何から手をつければいいかわからない」という経営者様のお声はよく耳にします。まずは現状の確認から始めてみましょう。

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このコラムを書いている人

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玉城 翼(たまき つばさ)

社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士

沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。

2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。

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