毎年4月、「料率の更新」を後回しにしていませんか
「給与計算ソフトの設定、今年も4月になってから直せばいいか」——そう思いながら年度末を迎えている経営者様は、決して少なくありません。観光・飲食・建設業が経済の中核を担う沖縄では、人の出入りが多い4月前後が繁忙期と重なることも多く、労務手続きの細かい更新作業がどうしても後手に回りがちです。
しかし、雇用保険料率は毎年度の変更が法令で定められており、4月1日以降の賃金支払いに旧料率を適用し続けると、過少または過大な保険料控除が積み重なります。誤りは従業員の給与明細に直接影響するだけでなく、年度更新の精算時に差額が発生し、修正の手間も増えます。
令和8年度(2026年4月1日〜2027年3月31日)の雇用保険料率は、前年度から変更になっています。まずは変更内容を正確に把握することから始めましょう。
令和8年度の雇用保険料率|何がどう変わったのか
令和8年度は、失業等給付・育児休業給付に充てられる保険料率の引き下げが行われました。雇用保険二事業(雇用安定事業・能力開発事業)の保険料率に変更はなく、事業主のみが負担する3.5/1,000(建設業は4.5/1,000)は据え置かれています。
変更のポイントは、失業等給付・育児休業給付の保険料率が労働者負担・事業主負担の双方で0.5/1,000引き下げられた点です。一見わずかな数字ですが、月給30万円の従業員1人あたり月150円の変動となり従業員数や給与水準によっては年間の総額に一定の影響が出ます。
料率変更の対応で見落としやすいポイント
料率が変わったという事実を知っていても、実際の対応で漏れが生じるケースは少なくありません。現場でよく見られる課題を整理しておきます。
まず確認いただきたいのは、給与計算ソフトの設定変更の時期です。給与ソフトによっては自動アップデートで対応されるものもありますが、手動設定が必要なシステムを使用している場合、4月の給与計算前に必ず料率の変更操作を行う必要があります。うっかり令和7年度の料率のまま4月以降の給与計算を実行してしまうと、従業員から控除すべき額と実際に控除した額がずれ、後から遡及修正が発生します。
次に、建設業を営む経営者様に特に留意いただきたいのが業種の確認です。建設業の雇用保険料率は一般の事業と異なります。現場作業員と、現場に関与しない事務職員とでは適用される料率が分かれる場合もあり、自社の業態と雇用形態に応じた正確な区分の確認が必要です。沖縄では公共工事や観光施設の建設需要が継続しており、建設業を営む経営者様の数も多いことから、この点の確認は特に重要です。
また、年の途中に入社した従業員の取り扱いも確認が必要です。4月以降に入社した従業員については当然に令和8年度の料率が適用されますが、3月以前から在籍している従業員の4月分給与からの切り替えについて、漏れなく対応できているかを確認してください。
年度更新(労働保険料の申告)との関係
雇用保険料率の変更と切り離せないのが、毎年6月1日から7月10日にかけて行われる労働保険の「年度更新」手続きです。年度更新とは、前年度の確定保険料を計算して精算するとともに、当年度の概算保険料を申告・納付する手続きで、労働基準監督署が窓口となります(ハローワークでは保険料の申告・納付は取り扱っていないため、提出先にご注意ください)。
令和8年度の年度更新では、令和7年度(前年度)の確定保険料の計算に令和7年度の料率を、令和8年度(当年度)の概算保険料の計算に令和8年度の新料率をそれぞれ使用することになります。この2つの年度にまたがる料率の使い分けが、計算誤りの温床になりやすい部分です。
特に従業員数が多い、あるいは年度内に賃金総額が大きく変動した場合は、前年度の確定額と概算額の差額が大きくなることもあります。余裕を持って準備を進めることで、申告期限直前の焦りを防ぐことができます。
また、年度更新の際には賃金台帳や出勤簿などの帳票を整理しておく必要があります。日々の給与計算が正確に記録・管理されていることが、スムーズな申告の前提となる点も覚えておいてください。
4月を前に、今一度確認しておきたいこと
まとめると、令和8年4月1日からの対応として確認が必要な事項は次の通りです。給与計算ソフトへの新料率の反映、自社の事業種別に応じた料率区分の確認(特に建設業)、そして6〜7月の年度更新に向けた賃金台帳の整備です。
労務管理に関する手続きは、一度ミスが生じると修正に時間と手間がかかります。「たぶん大丈夫」という感覚的な判断ではなく、制度の正確な理解に基づいた対応を積み重ねることが、経営の安定につながります。疑問点や不安がある場合は、ひとりで抱え込まず専門家にご相談されることをお勧めします。
沖縄の労務管理・就業規則見直しのご相談なら
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



