「うちはちゃんと水分補給を呼びかけているから大丈夫」
そう思っていた経営者の方に、ぜひ今回のデータを見ていただきたいと思います。毎年、夏が近づくと熱中症の話題が出るものの、「例年と同じ対応でいい」とついなりがちです。しかし2025年の統計は、その認識を根本から問い直すものでした。
沖縄は全国有数の高温多湿な環境です。観光・ホテル・飲食・建設業を中心とする第3次産業が経済を支えるこの地では、屋外での立ち仕事、厨房での作業、送迎・配送業務など、体に熱がこもりやすい環境で働く方が数多くいます。加えて、沖縄県では健康診断の有所見率が高く、糖尿病や高血圧といった生活習慣病を抱えながら働いている方が少なくありません。こうした背景が重なるとき、職場の熱中症リスクは一段と高くなります。
最新データが示す厳しい現実
厚生労働省が公表した2025年の速報値によると、職場での熱中症による死亡者および休業4日以上の業務上疾病者(死傷者数)の合計は1,681人に達し、統計を取り始めた2005年以降で最多を記録しました。
業種別に見ると、製造業(337人)と建設業(278人)が上位を占め、死亡者15人のうち建設業が5人と最も多くなっています。沖縄でも建設業は雇用の主要な受け皿であり、決して対岸の話ではありません。
月別では、死傷者の約7割が7月と8月の2ヶ月間に集中しており、6月から7月にかけて急激に増加する傾向が見られます。沖縄では6月の梅雨明けとともに猛烈な暑さが始まります。本土よりも早い段階から対策を整えておく必要があるのは、このためです。
年齢別では、50歳代以上が死傷者全体の約52%を占めており、死亡者については40歳代以上に集中し、50歳代以上で全体の約87%を占めています。人手不足を補うためにベテランや中高年層が現場に立つことが多い今日の状況と照らし合わせると、特に気を引き締めるべきデータです。
厚労省ガイドラインが求める7つの対策の柱
厚労省が公表している職場熱中症防止ガイドラインでは、事業者はまず熱中症リスクを把握・評価したうえで、業種・業態に応じて適切な対策を選択して実施することを求めています。具体的には、労働衛生管理体制の確立、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育、異常時の措置、その他の配慮事項という7つの柱が設けられています。
注目したいのは「労働衛生教育」の位置づけです。ガイドラインでは、簡単な教材でも繰り返し参照することが望ましいとされており、熱中症予防管理者向け教育、職長等向け教育、作業従事者向け教育とそれぞれ対象を分けた実施が想定されています。
また、作業開始前に体調の変化や睡眠不足がないかを声かけで確認すること、暑熱順化として計画的に体を暑さに慣らす期間を設けること、水分・塩分の作業前後と作業中の定期的な摂取を確保することも、対策の重要な一部です。
さらに、沖縄では外国人労働者数も過去最多を更新し続けています。ガイドラインではスポットワークを利用する労働者や、労働者と異なる場所で就業する個人事業者等への配慮にも言及されており、雇用形態の多様化が進む中で、正社員だけを対象とした教育では不十分な場面が増えてきました。
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経営者の方も、担当者の方も、まず現状確認から。一緒に整理しませんか?死亡事例が浮き彫りにした「対策漏れ」のパターン
2025年に発生した15件の職場熱中症死亡事例を詳細に分析すると、ある共通点が見えてきます。
熱中症予防のための労働衛生教育を実施したことが確認できなかった事例が15件中8件に上り、発症時・緊急時の報告体制を整備・周知していたことが確認できなかった事例が2件、措置手順を作成・周知していたことが確認できなかった事例が3件ありました。
つまり、半数以上の死亡事例において、そもそも教育が届いていなかったということです。水分補給の呼びかけや休憩の確保といった個別の対応は行っていたとしても、体系的な教育と緊急時の手順が整っていなければ、いざというときに適切な初動が取れません。
また、糖尿病・高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を有していることが明らかだった事例が15件中7件ありました。健康診断の結果を踏まえた個別の配慮が、対策の抜け穴になっていた実態がうかがえます。
沖縄の事業者にとってこれは特に注意すべき点です。生活習慣病の有所見率が高い地域特性を考えると、健康診断結果に基づいてリスクの高い従業員を把握し、作業時間の短縮や巡視の強化といった個別対応につなげる仕組みが不可欠です。
対応が遅れると何が起きるか
従業員が職場で熱中症を発症し、休業や死亡という事態に至った場合、事業者は労働安全衛生法に基づく義務違反を問われる可能性があります。労働基準監督署による調査が入り、是正勧告や場合によっては書類送検へと発展することもあります。
さらに、民事上の損害賠償責任を負うリスクも生じます。「暑いのはわかっていたが、まさか自社で起きるとは思わなかった」という声を私はこれまでも耳にしてきましたが、その「まさか」が現実になったとき、回復するまでの経営へのダメージは計り知れません。
採用の観点からも影響が出ます。沖縄では若年層の離職率が高く、職場環境への感度が上がっています。熱中症対策が不十分な職場という評判は、求職者が集まりにくい状況を招くことにもつながります。
今からできる具体的なアクション
まず取り組んでいただきたいのは、現在の対策状況の棚卸しです。以下の点を確認してみてください。
労働衛生教育を今シーズン実施する計画があるか。緊急時の報告体制と措置手順が文書化され、現場に周知されているか。直近の健康診断結果を踏まえて、リスクの高い従業員を把握しているか。WBGT(暑さ指数)を測定する機器があるか、または代替の温熱環境の把握手段があるか。
ガイドラインの内容はしっかりしているものの、自社の業態に合わせて何から手をつければよいかわからないという声もよく聞きます。規模や業種によって優先すべき対策は変わりますし、就業規則への熱中症対策の明記や、衛生委員会での議論の進め方も、実務の経験がないと難しい部分があります。
「たぶん大丈夫だろう」という感覚に頼るには、データが示すリスクはあまりにも大きくなっています。今シーズンが本格化する前に、一度現状を整理されることをお勧めします。
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就業規則への熱中症対策の明文化から、労働衛生教育の実施サポートまで、沖縄の事業者の実情に合わせてお手伝いします。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



