そのレポート、開いたままになっていませんか?
毎年この時期になると、ストレスチェックの実施報告を終えてほっと一息ついた後、集団分析のレポートがフォルダの中で眠ったまま……という状況になっていないでしょうか。
「高ストレス者に面談案内を送った」「実施率の報告書を労基署に提出した」それ自体は法令上の対応として必要なことですが、ストレスチェック制度の本来の目的は、職場のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことにあります。つまり、一次予防としての機能を果たすには、結果を読み解き、職場環境の改善へとつなげる段階まで取り組む必要があります。
沖縄は観光・飲食・介護・小売といった第3次産業が経済を牽引していますが、これらの業種は慢性的な人手不足と業務の集中が生じやすく、従業員のストレス負荷が高まりやすい傾向があります。また、県内の健康診断有所見率の高さが示すように、生活習慣のみならず、職場環境に起因する心身の負荷を見逃さない姿勢が、担当者様には求められています。
「結果は見たけれど、どこを見ればいいかわからない」「何をすれば職場改善につながるのか、整理できていない」—そのような担当者様のために、今回はストレスチェックの結果の見方と、職場改善への活かし方をわかりやすく整理します。
まず押さえたい「2種類の結果」
ストレスチェックの結果には、大きく分けて個人結果と集団分析(職場診断)の2種類があります。
個人結果は、従業員一人ひとりのストレス状態を点数化したもので、「仕事の量や人間関係などのストレス要因」「不安・疲労・意欲の低下といったストレス反応」「上司・同僚からのサポート状況」の3領域を評価し、一定の基準を超えた場合に高ストレス者として判定されます。個人結果は本人へ直接開示されるものであり、事業者が本人の同意なく閲覧することはできません。
一方、集団分析とは、部署やチーム単位で従業員のストレスチェック結果を集計・分析し、組織全体や特定の集団のストレス傾向を把握する手法です。この集団分析こそが、職場環境の改善につながるヒントの宝庫です。なお、現在は集団分析の実施は事業者の努力義務とされていますが、2025年に成立した労働安全衛生法の改正では、従業員50人未満の事業場へのストレスチェック義務化も決定しており、集団分析への関心はより高まっていくことが見込まれます。
集団分析の核心:「仕事のストレス判定図」の読み方
集団分析の中心的なツールが、厚生労働省のストレスチェック実施プログラムが出力する「仕事のストレス判定図」です。この判定図は、全国約3万人の平均を基準として、職場のストレス度を相対的に評価します。
判定図は「量-コントロール判定図」と「職場の支援判定図」の2つで構成されています。
量-コントロール判定図は、縦軸に「仕事のコントロール(裁量・自由度)」、横軸に「仕事の量的負担」を置き、プロットが右下(負担が多く、裁量が低い)に位置するほどストレスが高い状態を示します。例えば、業務量が多いのに自分でペースを調整しにくい環境は、心理的負担が蓄積しやすく、離職率の上昇や体調不良につながる可能性があります。
職場の支援判定図は、縦軸に「同僚の支援」、横軸に「上司の支援」を置き、プロットが左下(いずれの支援も低い)に位置するほどストレスが高い状態を示します。観光・接客業などのシフト制職場では、上司が常時在席していない環境も多く、孤立感が生じやすいという特性があります。
この2つの判定図から算出されるのが「健康リスク」です。健康リスクAは業務負荷に関するリスク、健康リスクBは職場のサポートに関するリスクを示し、それらを掛け合わせて100で割ったものが総合健康リスクとなります。全国平均を100として、120点以上では潜在的な問題があると考えられ、150点以上では健康問題が表面化しており早急な対応が求められる状態です。
ただし、数値だけで判断することには注意が必要です。数字には表れない問題が潜んでいる可能性もあるため、現場へのヒアリングや対話と組み合わせることが重要です。
ストレスチェックの導入について、ご相談ください。
初回無料相談はこちら「高ストレス者ゼロ」でも安心できない理由
ストレスチェックの個人結果で高ストレス者が少なかったとしても、それをもって職場環境に問題がないと判断するのは早計です。
組織全体に慢性的なストレスが蓄積している場合、個人のスコアには明確に表れにくいことがあります。「みんなそれが当たり前だと思っている」「言っても仕方ないと感じている」そういった職場文化の中では、ストレス反応を自覚しにくい状況が形成されていることもあります。
また、集団分析の結果を開示したにもかかわらず、その後に何のアクションも取られなかった場合、従業員が「結果を出したのに何も変わらない」と感じ、かえって信頼や意欲の低下につながることもあります。結果を受け取ったら、たとえ小さなことでも「次の一手」を示すことが、担当者様の役割として重要です。
さらに、場当たり的な対策では効果が出ないだけでなく、現場に余計な負担をかけてしまう可能性もあります。継続的な改善サイクルと、必要に応じた第三者の視点が欠かせません。沖縄県内では、沖縄産業保健総合支援センターが産業保健に関する相談・支援を提供しており、専門家のサポートを積極的に活用することも一つの選択肢です。
集団分析を活かす3つのステップ
では、具体的にどのように動けばよいのか。判定図と健康リスクの数値を確認した後のアクションを3段階で整理します。
第一ステップは、結果をチームで共有・振り返る場をつくることです。部署単位で「どこに負荷がかかっているのか」「サポート体制に課題がないか」を一緒に考える機会を設けましょう。数値を一方的に提示するのではなく、「なぜそうなっているのか」を対話の中で深掘りすることが、改善策の精度を高めます。
健康リスクAが高い、つまり仕事の量や裁量に課題がある場合は、業務フローの見直し、マニュアルの整備、特定の個人やチームへの偏りがないかの確認といった労務管理上の改善が有効です。健康リスクBが高い、つまり上司・同僚からのサポートに課題がある場合は、定期的な1on1ミーティングの導入、情報共有の仕組みづくり、管理職向けのコミュニケーション研修の検討などが考えられます。
第二ステップは、小さなアクションから始めることです。大がかりな施策を一度に打とうとすると、準備に時間がかかり結局動けないままになりがちです。「朝礼での一声かけを増やす」「相談しやすい環境を意識的につくる」など、現場がすぐに動けることから始めましょう。
第三ステップは、年度ごとに変化を追うことです。ストレスチェックは毎年継続実施することで、施策の効果が数値として見えてきます。前年度との比較ができると、「どの部署が改善したか」「新たな課題が出てきたか」が明確になり、次のアクションへの根拠にもなります。
まとめ:データを「職場の未来づくり」に活かすために
ストレスチェックは、義務を果たすためのイベントではありません。従業員が安心して働き続けられる職場をつくるための、大切なデータの入口です。
集団分析の結果を正しく読み解き、部署ごとの課題を把握し、対話を重ねながら改善を積み重ねていく—この一連のプロセスが、離職率の高い沖縄の職場環境において、人材定着にもつながる地道な取り組みとなります。
「レポートの見方を一緒に確認したい」「どこから手をつければいいかわからない」といった段階からのご相談も、つばさ社会保険労務士事務所では承っております。
ストレスチェックの結果、一緒に読み解きましょう
「集団分析のレポートを見ても、次に何をすべきかわからない」——そのご不安、ぜひ一度専門家にお聞かせください。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



