「去年も同じことを言っていた気がする」と思ったら、要注意です
毎年この時期になると、社内向けに熱中症の注意喚起メールを送って、ポスターを貼って、「水分をこまめに摂るよう伝えてください」と現場に一声かけて――それで対応が終わっていないでしょうか。
担当者様のお気持ちは十分理解できます。業務は山積みで、熱中症対策は「やるべきことは分かっている」ように見える。しかし、沖縄労働局が令和8年4月に公表した最新データを確認すると、毎年同じ水準の労働災害が発生し続けているという現実が浮かび上がってきます。
今年は令和8年3月に「職場における熱中症防止のためのガイドライン」が新たに策定されました。これは従来の取り組みを踏まえたうえで行政が改めて事業者へ求める指針の整理です。人事・労務の担当者として、この変化をきちんと把握しておくことが求められています。
令和7年のデータが示す沖縄の実態
沖縄労働局の発表によると、令和7年(2025年)に沖縄県内で発生した職場における熱中症による休業4日以上の死傷者数は16人でした。前年と同数という結果は、決して「改善している」と楽観視できる数字ではありません。
過去10年間(平成28年〜令和7年)の累計データを見ると、いくつかの特徴が明確に浮かび上がります。
業種別では建設業が全体の30.0%を占め最多となっています。続いて運輸交通業、製造業、商業、接客娯楽業がそれぞれ10%前後で並びます。
発生時期は6月から8月の3か月間に全体の80.0%が集中しており、時間帯では15時台が最も多く15.8%、次いで9時台以前が15.0%という結果になっています。朝の早い時間帯にもリスクがあるという点は、見落とされやすい部分です。
事業場規模別では、50人未満の規模が全体の64.2%を占めています。専任の衛生管理者や産業医が常駐していないことも多い規模感であり、人事担当者が実質的に安全衛生の要を担っているケースがほとんどでしょう。
年齢別では40歳代が全体の27.5%で最多となっています。ベテランの現場担当者ほど「このくらいは大丈夫」という過信が生まれやすく、その点でも注意が必要です。
令和8年3月策定の新ガイドラインで変わったこと
令和8年3月、厚生労働省は「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を新たに策定しました。従来の指針を発展させた内容となっており、令和8年の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」(5月〜9月)の重点対策として周知が図られています。
新ガイドラインでは、暑さ指数(WBGT値)の把握と、その値に応じた対策の実施を具体的な行動の起点として位置づけています。これはWBGT値を「測っておけばよい」ということではなく、測定した値に応じて作業の中断や休憩の取り方を変える義務的な対応として整理されています。
また、熱中症の重篤化による死亡災害の防止という観点から、「早期発見のための体制整備」「重篤化を防ぐための措置の実施手順の作成」「関係作業者への周知」が三本柱として掲げられています。体制が書面として整備されているだけでなく、現場の全員が内容を理解しているかどうかまでが問われる設計です。
さらに、糖尿病・高血圧症など熱中症の発症に影響する疾病を持つ従業員に対して、医師等の意見を踏まえた配慮を行うことが求められています。健康診断結果を活かした個別対応の必要性が、より明確に示された形です。
熱中症対策、まず何から手をつければよいかご相談ください
初回無料相談はこちら「うちはちゃんとやっている」が、実は不十分なケース
担当者様が日々真剣に取り組んでいることは前提としたうえで、実際の相談事例から見えてくる典型的な抜け漏れをご紹介します。
一つ目は、WBGT値の測定機器はあるが運用ルールがないケースです。機器を購入して設置しただけで、「測定した値がいくつになったら作業を中断する」という判断基準が書面化されていない、あるいは現場監督者に共有されていない、というケースは少なくありません。機器の存在と対策の実施は、別物です。
二つ目は、健康診断結果と作業配慮が連動していないケースです。定期健康診断で高血圧や糖尿病の所見がある従業員について、炎天下の作業配置を変えるなどの配慮を行っていない場合、新ガイドラインの求める対応から外れる可能性があります。沖縄県は全国的に見て生活習慣病の有所見率が高い傾向にあるため、この点は特に意識が必要です。
三つ目は、緊急時対応手順が形式的なままになっているケースです。「異常を感じたら報告する」という文言はあっても、連絡先・搬送先医療機関・対応担当者名が明記されていない、あるいは昨年の担当者が退職して情報が更新されていないというケースが散見されます。令和7年の発生事例でも、作業中の意識消失や痙攣など、初期対応が命に関わる局面が複数確認されています。
対応が不十分な場合に生じる法的・実務的な影響
熱中症労働災害が発生した場合、事業者は労働安全衛生法に基づく安全配慮義務を果たしていたかどうかが問われます。具体的には、WBGT値の測定・管理が行われていたか、作業手順が整備されていたか、従業員への教育が実施されていたか、といった点が検証の対象になります。
労働基準監督署による調査が入った場合、書面による記録がなければ「対策を講じていた」という主張は認められにくくなります。さらに、労災認定がなされた場合には、労働者災害補償保険からの給付とは別に、民事上の損害賠償責任が発生する可能性があります。
また、建設業や接客業などでは、取引先や親会社から安全衛生体制の整備状況を確認される機会が増えています。熱中症対策が適切に整備されていないことが、企業としての信頼性に影響することも念頭に置いておく必要があります。
担当者として今月中に確認しておきたいこと
キャンペーンの重点取組期間は5月から9月です。準備として、少なくとも以下の点を今月中に確認することをお勧めします。
まず、事業場ごとに熱中症予防管理者が選任されているかどうかを確認してください。複数拠点がある場合は、それぞれの現場に責任者が明確に位置づけられているかがポイントです。
次に、WBGT値に応じた作業中断の基準が、現場監督者に書面で共有されているかを確認してください。「何度になったら何をするか」という具体的な行動基準が必要です。
そして、昨年度の健康診断結果を確認し、熱中症リスクの高い疾病を持つ従業員の作業配置について、産業医や主治医の意見を確認する体制を整えてください。
緊急時の連絡体制と搬送先医療機関の情報が最新であるかの確認も、忘れられがちですが重要です。担当者が変わっていれば、必ず引き継ぎを行ってください。
これらは一つひとつは決して難しいことではありません。しかし、バラバラに存在しているだけでは体制とは言えません。書面として整備し、現場全員が内容を知っている状態にして初めて、「対策を講じている」という実態になります。
「うちの規模でどこまで対応が必要か」「健診結果と作業配慮をどう結びつければよいか」といった具体的な疑問は、専門家に確認するのが最も確実です。
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「現場任せになっていて不安」「新しいガイドラインに自社の対応が追いついているか確認したい」—そんなときこそ、専門家を活用してください。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
特定社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



