年末調整が終わっても、続く提出作業
年末調整が無事に完了した安堵もつかの間、次は法定調書の提出作業が待っています。給与支払報告書を従業員の住所地の各市区町村に、源泉徴収票を所轄の税務署に—提出先も様式の取り扱いも異なる二つの書類を並行して準備するこの作業は、特に従業員が複数市区町村にまたがって居住している貴社の担当者にとって、毎年の"年明け最初の重荷"になっていないでしょうか。
観光・飲食・小売・建設など多様な業種が集まる沖縄では、パートタイムや季節雇用の方も多く、住所地が分散しているケースも少なくありません。市区町村ごとに仕分けをして提出する手間は、担当者の負担として積み重なってきました。
この構造が、令和8年分(2026年分)の年末調整から大きく変わります。
「市区町村に提出すれば、税務署も完了」—特例の骨格
国税庁が整備した「源泉徴収票のみなし提出の特例」は、令和9年1月1日以後に提出すべき源泉徴収票を対象に適用されます。実務的には令和8年分(2026年分)の年末調整・法定調書から適用開始となります。
これまでは、給与支払者が市区町村に給与支払報告書を提出するほかに、所轄の税務署にも給与所得の源泉徴収票を別途提出する必要がありました。特例の適用後は、一定の事項が記載された給与支払報告書を市区町村に提出した場合、税務署への源泉徴収票の提出は行ったものとみなされます。市区町村に提出されたデータは行政間のデータ連携によって税務署へ共有される仕組みが整っているためです。
ただし、この特例には明確な方向性があります。「市区町村への提出→税務署への提出とみなされる」という一方向の特例であり、逆に税務署に源泉徴収票を提出したとしても、市区町村への給与支払報告書の提出義務が免除されるわけではありません。両方の提出先に対してどちらが省略できるのかを、まず正確に理解しておくことが出発点になります。
また、この特例はあくまで「税務署への提出義務」を不要とするものです。従業員本人への源泉徴収票の交付義務は、これまでと同様に全受給者に対して残ります。「提出不要」という言葉の範囲を従業員交付の義務まで含めて捉えてしまうと、対応漏れが生じますので注意が必要です。
「相談するほどでもないかな」と思っていることが、実は一番大事だったりします。
初回相談はこちら制度切り替え期に起こりがちなミス
制度が変わる年ほど、「昨年の手順で処理したら対応が変わっていた」という事態が起きやすくなります。
特に注意が必要なのは、令和7年分と令和8年分の手続きが異なることの社内共有です。担当者が途中で変わっている場合や、年末調整業務が複数部署にまたがっている場合、情報の引き継ぎが不十分なまま処理が進んでしまうことがあります。令和7年分の法定調書は税務署への源泉徴収票提出が必要、令和8年分からは市区町村への給与支払報告書提出でみなし提出となる——この年度ごとの違いを、担当者全員が把握しておくことが重要です。
また、給与支払報告書の提出とあわせて「給与支払報告書(総括表)」を市区町村に提出する必要がある点は変わりません。税務署への法定調書合計表についても、退職所得の源泉徴収票など給与所得の源泉徴収票以外の法定調書を提出する場合には引き続き提出が必要です。「全部まとめて不要になった」という過剰な理解をしないよう、どこまでが省略できてどこからは残るかを丁寧に整理しておくことをお勧めします。
今から進めておきたい実務上の準備
制度改正の内容は複数の要素が絡み合っており、個別の状況によって対応の優先順位も変わってきます。貴社の状況に照らして、以下のような確認から始めてみてください。
まず、給与計算ソフトやシステムが令和8年分の新手順に対応しているかを、ベンダーに確認しておきましょう。年末調整シーズンになってから慌てて対応するよりも、今の時期に確認を済ませておく方が、余裕をもって準備を進められます。
「自社の電子的提出義務の枚数はどう数えるのか」「eLTAXを使っていない場合の手順はどうなるのか」といった個別の疑問は、実務に関わる内容であるほど一般論では解決しにくいものです。不明点を放置したまま年末調整シーズンを迎えるよりも、税理士に相談して事前に整理しておく方が、担当者の方にとっても安心です。
このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
特定社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



