「去年と同じ対策」では不十分になっている可能性があります
毎年夏になると、熱中症対策を「やらなければ」と思いつつ、何をどこまで整えれば十分なのか判断に迷う—そういう状況、実は多くの担当者が抱えています。
沖縄では、梅雨明けとともに気温と湿度が一気に上昇し、屋外作業はもちろん、厨房・倉庫・観光施設のフロア・工事現場など、あらゆる場所が暑熱環境になります。「例年通りの水分補給の呼びかけと休憩の徹底で対応してきた」という事業場も多いと思いますが、令和7年の安衛則改正に続き、令和8年3月には厚生労働省の検討会が報告書を取りまとめ、新たな「職場における熱中症防止のためのガイドライン」が策定・公表されました。今年の夏に向けて、体制を改めて確認する機会としていただければと思います。
令和7年の省令改正と令和8年のガイドライン、それぞれのポイント
職場の熱中症対策をめぐっては、ここ1〜2年で段階的に制度整備が進んでいます。令和7年と令和8年、それぞれで何が変わったのかを整理しておきましょう。
令和7年には労働安全衛生規則が改正され、事業者の義務として新たに明文化されたのが、同規則第612条の2に基づく「報告体制の整備」です。具体的には、WBGT値(暑さ指数)が28度以上、または気温が31度以上となる場所において、連続1時間以上または1日4時間を超えて作業が行われる場合、従事者が熱中症の自覚症状を感じたとき、あるいは周囲が異変に気づいたときに報告できる体制を整備し、緊急時の手順とともに関係者に周知することが義務付けられました。この改正は昨年夏から適用されており、すでに対応が求められている事項です。
しかし、厚生労働省の検討会が令和8年3月に公表した報告書では、「発災事業場においては、改正省令に基づく措置が行われていない傾向である」と指摘されています。つまり、義務化されてもなお、現場への浸透が十分でない実態が明らかになっています。また、死亡者数の抑制だけでなく休業4日以上の死傷者数の抑制も重要であるとして、熱中症の罹患リスクそのものを低下させることが改めて課題として示されました。
これを受け、同月に策定・公表されたのが、令和8年夏に向けた新しい「職場における熱中症防止のためのガイドライン」です。このガイドラインは、業種・業態によって作業内容や現場制約が異なることを踏まえ、「一律の対策を押しつけるのではなく、複数のオプションの中から事業者が業種・業態に応じて選択して取り組めるよう」包括的に対策をまとめたものです。WBGTの把握・評価を起点として、作業環境管理・作業管理・健康管理・労働衛生教育という5つの柱で構成されており、義務事項と推奨事項が区分されています。
WBGTとは、気温・湿度・輻射熱を組み合わせた「暑さ指数」のことで、単純な気温よりも熱中症リスクをより正確に反映する指標です。ガイドラインでは、JIS規格に適合したWBGT指数計を準備・点検した上で、作業場所での随時把握を基本としています。特に屋外の直射日光下や、炉・厨房など輻射熱のある職場では、環境省の参考値と実際の作業環境に差が生じやすいため、実測が必要とされています。
事業者に求められる5つの柱
ガイドラインでは、熱中症リスクへの対応を以下の5つの柱で整理しています。
一つ目は「労働衛生管理体制の確立」です。衛生管理者(50人未満の事業場では安全衛生推進者または衛生推進者)を中心に体制を整え、必要に応じて「熱中症予防管理者」を選任することが求められます。熱中症予防管理者は、WBGTの評価・結果への対応・従業員の暑熱順化確認・教育の実施状況確認など、具体的な業務を担います。
二つ目は「作業環境管理」で、WBGT値の低減を目的とした遮熱対策・送風・冷房設備の点検、および冷房を備えた休憩場所の確保などが含まれます。
三つ目は「作業管理」です。連続作業時間の短縮、水分・塩分の定期的な補給の徹底のほか、「暑熱順化」の実施が求められています。暑熱順化とは身体を暑さに慣らすプロセスのことで、ガイドラインでは7日以上かけて計画的に実施することが求められています。新規雇い入れの従業員や、夏季休暇等で4日以上作業を離れていた従業員は暑熱順化が失われているとして、特段の配慮が必要です。スポットワーカーについても、暑熱順化が確認できない場合は未順化者として取り扱うことが望ましいとされています。
四つ目は「健康管理」で、定期健康診断の結果に基づく就業上の措置、および作業前の体調確認が求められます。糖尿病・高血圧・心疾患・腎不全・精神神経関係の疾患などは、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾病として列挙されており、これらを持つ従業員への対応は産業医等の意見も参考に検討する必要があります。
五つ目は「労働衛生教育」です。ガイドラインでは、熱中症予防管理者向け・職長等向け・作業従事者向けの3区分それぞれについて、教育事項と時間の目安が示されています。熱中症予防管理者向けは計225分程度、職長等向けは60分程度が目安とされており、夏本番を迎える前に計画的に実施しておくことが望まれます。
「相談するほどでもないかな」と思っていることが、実は一番大事だったりします。
初回無料相談はこちら対応が遅れると何が起きるのか
体制の整備が不十分なまま夏を迎えた場合、どのようなリスクが生じうるか、具体的に確認しておきましょう。
万が一、熱中症による死亡や重篤な障害が発生した場合、労働基準監督署による調査が入ります。その際、報告体制の整備・緊急時の手順の周知・暑熱順化への対応といった義務事項を履行していなかったと認定されれば、是正勧告や使用停止命令の対象となる可能性があります。また、被災した従業員またはその遺族から民事上の損害賠償請求を受けるリスクも否定できません。
沖縄では特に、観光・飲食・建設業など、屋外や空調の行き届きにくい環境での作業が多い業種が集積しています。こうした環境で働く方々には、生活習慣病(糖尿病・高血圧・心疾患など)を抱えるケースも一定割合で存在し、これらはガイドラインが「熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾病」として特別な対応を求めているものです。健康診断結果に基づく就業配慮を怠っていた場合には、その点での責任を問われる場面があります。
「体制は整えていなかった」「手順書は作っていなかった」という事実は、事後の対応において不利な状況をつくります。対応の不備が記録として残ることを避けるためにも、夏を迎える前の体制整備が重要です。
また、令和7年の法改正では、作業従事者の範囲が労働者だけでなく個人事業者等にまで拡大されています。現場に下請け先の作業者やフリーランスの方が入る場合にも、注文者・作業場所管理事業者としての配慮義務が生じることは、忘れずに確認しておきたいポイントです。
何から始めればよいか
ガイドラインの内容は多岐にわたるため、「どこから手をつければよいか」と感じるのは自然なことです。WBGT指数計の選定・設置、管理体制の文書化、暑熱順化プログラムの策定、教育計画の立案—これらを通常業務と並行して整備するのは、担当者にとって相当な工数です。
整備を進める上でまず大切なのは、自社の作業環境が「熱中症を生ずるおそれのある作業」に該当するかを確認し、どの措置が義務でどれが推奨事項かを区別して把握することです。その上で、今年の夏に間に合わせるべき優先事項を絞り込んでいくことが、現実的なアプローチになります。
社会保険労務士は、このような労働衛生管理の体制整備についても相談対応を行っています。「うちの職場は対象になるのか」「どの書類から整えればよいか」といった入口の疑問から、一緒に整理していくことができます。
熱中症対策の体制整備、貴社の準備状況を一緒に確認しませんか
WBGTの把握方法から報告体制・教育計画の整備まで、何から始めればよいかを現状に合わせて整理します。まずは現状をお聞かせいただくだけで構いません。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
特定社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



