沖縄県の最低賃金は、令和7年12月1日から時間額1,023円となりました。前年度からの引上げ額は71円。ここ数年の推移を振り返ると、令和3年度は28円、令和5年度は43円、そして令和6年度は56円と、引上げ幅そのものが年々大きくなってきています。そして令和8年度についても、7月1日に沖縄地方最低賃金審議会へ改定の諮問が行われる予定で、さらなる引上げが見込まれる情勢です。
「今いる従業員の時給を、また見直さなければならない」「賞与や手当も含めて、賃金体系全体を点検する時期かもしれない」—そうした検討に追われている状況、実は県内の多くの担当者様が同じように直面しています。沖縄は有効求人倍率が高い水準で推移し、全産業で人手の確保が課題となっている地域です。加えて若年層の早期離職率や非正規雇用の割合も全国と異なる構造を抱えており、賃金の見直しは「コスト」であると同時に、人材の定着と確保に直結する経営課題でもあります。
ここで難しいのは、最低賃金への対応が単なる時給の引上げにとどまらない点です。事業場内で最も低い賃金が新しい最低賃金額を下回らないようにするのはもちろんですが、実務上はそれだけでは終わりません。最低賃金額と比較する際の賃金には、何を含めて何を含めないのかという算入ルールがあり、精皆勤手当や通勤手当、家族手当、時間外割増賃金、賞与のように一定期間ごとに支払われるものなどは、比較の対象となる賃金から除外して計算する必要があります。つまり、額面の時給が最低賃金額を上回っているように見えても、算入対象を正しく整理すると実は下回っていた、という事態が起こり得るのです。
さらに、賃金の引上げは社会保険や労働保険の手続きにも波及します。賃金体系を見直せば標準報酬月額の変更が生じる場合があり、法定の基準に沿った正確な届出が求められます。月給制の方の時給換算、シフト勤務者の取り扱い、最低賃金の発効日をまたぐ賃金計算など、確認すべき論点は想像以上に多岐にわたります。こうした作業を、通常業務と並行して限られた人員でこなしていくのは、担当者様にとって相当な負荷となるのが実情です。
「相談するほどでもないかな」と思っていることが、実は一番大事だったりします。
初回無料相談はこちら見落としがちなのが、最低賃金額を下回った状態が放置された場合のリスクです。最低賃金法では、最低賃金額に達しない賃金を定めた労働契約はその部分が無効となり、自動的に最低賃金額と同じ定めをしたものとみなされます。つまり、仮に下回る金額で支払っていたとしても、差額分は法律上当然に支払い義務が生じるという仕組みです。そして地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合には、50万円以下の罰金という罰則も定められています。沖縄県は定期監督における法令違反率が全国平均を上回る水準で推移している地域でもあり、賃金関係の点検は監督対応の観点からも軽視できません。
もっとも、こうした賃上げ局面は、負担の側面ばかりではありません。賃金引上げに取り組む企業様を後押しするための支援策が、国・県の双方から数多く用意されています。代表的なものが業務改善助成金です。これは事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げたうえで、生産性向上に資する設備投資などを行った場合に、その費用の一部が助成される制度です。沖縄県では、これに上乗せする形で沖縄県業務改善奨励金も設けられており、要件を満たす場合には自己負担分の軽減につながる可能性があります。
有期雇用や短時間勤務の従業員が多い職場であれば、キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースも検討に値します。これは有期雇用労働者等の基本給の賃金規定を3パーセント以上増額改定し、その規定を適用させた場合に、一定の要件を満たすことで賃金引上げ率に応じた助成が受けられる制度です。引上げ率が3パーセント以上4パーセント未満であれば一人あたり4万円、4パーセント以上5パーセント未満であれば5万円、5パーセント以上6パーセント未満であれば6万5千円というように、改定幅に応じて段階的に設定されています。非正規雇用の割合が全国より高い沖縄の労働市場において、処遇改善と人材定着を同時に進める手段として活用の余地があります。
税制面でも支援があります。青色申告書を提出している企業様が一定の要件を満たして賃金引上げを行った場合、その増加額の一定割合を法人税額または所得税額から控除できる賃上げ促進税制が設けられており、中小企業向けでは全雇用者の給与等支給額の増加額について最大45パーセントの税額控除が認められています。この制度は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象とされています。これらの制度はいずれも受給や適用の要件が定められており、自社の状況が要件に合致するかどうかを事前に見極めることが、活用の第一歩となります。
こうして整理してみると、最低賃金への対応は「正しく計算し、正しく届け出る」という守りの実務と、「使える支援策を漏れなく活用する」という攻めの判断が、同時に求められる場面だとお分かりいただけると思います。制度は数多くありますが、それぞれに要件や申請期限、賃上げと申請の前後関係といった細かなルールがあり、自社にとって最適な組み合わせを見極めるには専門的な知識が欠かせません。判断に迷ったとき、あるいは「この理解で合っているか確かめたい」と感じたときに、経営者様や担当者様とともに状況を整理していくのが、私たち社会保険労務士の役割です。最低賃金の点検から助成金の活用可能性の確認まで、まずは現状をお聞かせいただくところから始めていただければと思います。
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賃金の点検から活用できる助成金の整理まで、一緒に進めていきましょう。まず現状をお聞かせいただくだけで構いません。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
特定社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



