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人は増えないのに、確認することだけが増えていく—労務でAIを使う前に決めること

人は増えないのに、確認することだけが増えていく

 

沖縄県内では有効求人倍率が1倍を超える状態が長く続いており、総務や人事の担当が実質ひとりという職場も珍しくありません。就業規則の見直し、健康診断の受診勧奨、ハラスメント相談の窓口、そこに毎年の法改正が重なってきます。手が足りないなかで「この作業、AIに任せられないだろうか」と考える—この状況、実は多くの担当者が直面しています。

そこへ7月25日(日本時間)、AnthropicがClaude Opus 5を公開しました。上位モデルであるClaude Fable 5に迫る性能を、その約半分の価格で提供するというもので、月額20ドルのProプランでも選べる最上位モデルになりました。API価格は前世代から据え置きです。技術寄りの話に聞こえますが、担当者様にとっての意味はひとつで、これまで価格の面で試しにくかった水準のAIが、部署の判断で使える範囲に降りてきたということです。

 

 

性能が上がっても、労務側に残る制約

 

新モデルで伸びたのは、コード生成、複数の操作を自律的に続けるエージェント動作、そしてPCそのものの操作です。文章を書かせるだけでなく、手順のある作業をまとめて任せる方向に進んでいます。ただし公表されている数値はAnthropicの自社評価であり、実際の業務での使用感と一致するとは限りません。

そのうえで、人事労務でAIを使うときには、性能とは別の制約が残ります。

まず、AIが持っている知識には期限があります。Opus 5の知識のカットオフは2026年5月ごろとされており、それ以降に成立・施行された内容は学習していません。検索機能で補える部分はありますが、拾ってきた情報が自社の状況に当てはまるかどうかの判断までは代わってくれません。

もうひとつは、扱う情報の性質です。人事労務が触れる情報は、その大半が特定の従業員に結びつく個人データです。個人情報の保護に関する法律は、個人データの取扱いを外部に委託する場合、委託先に対して必要かつ適切な監督を行うことを事業者に求めています。無料のAIサービスに従業員名簿を貼り付けた時点で、この監督義務をどう果たすのかという問題が生じます。労働者名簿や賃金台帳のように、労働基準法が保存を義務づけている書類であればなおさらです。

健康情報になると線はさらにはっきりします。ストレスチェックの結果は、検査を行った医師等が本人の同意を得ずに事業者へ提供してはならないと定められています。事業者の手元に集まらないことが前提の情報です。集計や分析をAIで効率化しようと考える前に、そもそも誰がどの範囲の情報を持ってよいのかという設計が先に来ます。 

実務としては、使おうとしているサービスごとに、入力したデータがどこに保存され、どの期間残り、モデルの学習に使われるのかを利用規約から確認していく作業になります。担当者様が本業の合間にこれを一つずつ読み解くとなると、工数は相当なものになります。

「相談するほどでもないかな」と思っていることが、実は一番大事だったりします。

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「AIがそう言っていた」は、説明として通らない

 

沖縄労働局の定期監督では、法令違反が認められた事業場の割合が全国平均を上回る水準で推移しています。是正勧告を受けた場面で問われるのは、なぜその運用にしたのかという理由です。AIの回答をそのまま就業規則や労使協定に落とし込み、自社の実態と合わない条文ができていたとしても、説明する立場に立つのは事業者です。

もうひとつ起きやすいのが、社内のルールを決めないうちに、各自が個人のアカウントでAIを使い始める状態です。誰が、どの情報を、どのサービスに入れたのかを会社が把握できていないため、後から経路をたどれません。何かが起きてから調べる形になると、対象となる従業員への説明も、再発を防ぐための手当ても後手に回ります。

 

先に決めるのは、ツールではなくルー

 

順番を逆にしないことです。どのサービスを契約するかより先に、入力してよい情報とそうでない情報の線引き、利用してよい業務の範囲、出力を誰がどう検証するか。この三点を文書にしておくと、担当者様が個別の場面で判断に迷わなくなります。

AIが向いているのは、条文や通達の下調べ、社内向け説明文の下書き、既存文書の読み合わせといった、間違いに気づける前提のある作業です。一方で、自社の実情を踏まえた規程の設計、労使での話し合いの進め方、行政への説明の組み立ては、事情を聞き取ったうえで人が判断する領域として残ります。当事務所では、この切り分けを含めた生成AIの利用ルールづくりと、労務の実務を並行してご支援しています。

 

生成AIの利用ルール、貴社ではどこまで決まっていますか

入れてよい情報の線引きから運用ルールの文書化まで、一緒に整理しましょう。いま使っているツールと使い方を伺うところから始められます。

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このコラムを書いている人

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玉城 翼(たまき つばさ)

特定社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士

沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。

2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。

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