「最低賃金も上がったし、世間では大幅な賃上げのニュースばかり。うちも上げてやりたいが、そんな余裕はない……」
沖縄県内で日々奮闘されている経営者の皆様、そんなジレンマを抱えていませんか? つばさ社会保険労務士事務所の玉城翼です。
人手不足が深刻な沖縄において、社員を引き留めるための「賃上げ」は避けて通れない課題です。しかし、売上が急に増えるわけではありません。そこで多くの経営者様が検討されるのが、「給与配分の見直し」です。
具体的には、「昔からある一律の手当(家族手当や住宅手当など)を廃止して、その分を基本給や成果給に回そう」という考え方です。これなら総人件費を大きく変えずに、頑張っている若手や主力の給与を上げることができます。
一見、理にかなった「制度改革」に見えます。しかし、法律の視点で見ると、ここには「不利益変更」という大きな落とし穴が潜んでいるのです。今回は、賃上げ時代だからこそ知っておくべき、給与体系変更のリスクと正しい進め方について解説します。
「手当の廃止」は、たとえ目的が良くてもリスクがある
「基本給を上げるために手当をなくすのだから、社員にとってもプラスだろう」と思われるかもしれません。しかし、全員にとってプラスになるとは限らないのが難しいところです。
例えば、「家族手当」を廃止して、その原資を「基本給」のベースアップに回したとします。独身の社員や子供がいない社員にとっては「給料が上がった!」と喜ばれますが、扶養家族が多いベテラン社員にとっては、基本給のアップ分よりも手当のマイナス分が大きくなり、結果として「手取りが減る」可能性があります。
法律(労働契約法)では、たとえ一部の社員であっても、労働条件が悪くなる場合は「不利益変更」とみなされます。会社全体として賃上げを目指す前向きな改革であっても、個々の社員から見れば「約束を破られた」となり、訴訟などのトラブルに発展するリスクがあるのです。
社員の納得を得て、改革を成功させるポイント
では、リスクを避けて給与体系を見直すにはどうすればよいのでしょうか。法律上求められる「合理性」の観点から、重要なポイントをお伝えします。
・「なぜ変えるのか」を正直に伝える 単に「コスト削減」と言うのではなく、「成果を出している社員に報いるため」「若い世代が働きやすい会社にするため」といった、会社の未来に向けた目的を語ることが大切です。
・いきなりゼロにしない(経過措置) 廃止する手当がある場合、すぐにゼロにするのではなく、3年~5年かけて徐々に減額していく「激変緩和措置(調整手当)」を設けます。これにより、手取りが減る社員の生活への衝撃を和らげることができます。
・代わりのメリットを用意する 手当をなくす代わりに、評価制度を導入して「頑張れば以前より稼げる仕組み」を作るなど、将来的な希望を持てる制度設計が必要です。
・やっぱり「対話」が命 就業規則を勝手に書き換えて終わり、ではありません。不利益を被る可能性がある社員も含め、説明会を開き、膝を突き合わせて話し合うプロセスそのものが、法的な正当性を高めます。
沖縄の企業だからこそ、「属人給」からの脱却を
沖縄の企業の多くは、家族的な温かさを大切にしてきました。そのため、「家族手当」や「皆勤手当」といった、仕事の成果とは直接関係のない「属人的な手当」が多く残っている傾向があります。
しかし、働き方が多様化し、「同一労働同一賃金」が求められる現代において、こうした手当は時代に合わなくなりつつあります。人手不足を乗り越える強い組織を作るためには、過去の慣習にとらわれず、今の時代に合った給与体系へと「脱皮」する勇気が必要です。
もちろん、それは簡単なことではありません。だからこそ、私たち専門家がいます。トラブルを防ぎながら、会社と社員の双方が納得できる「未来志向の賃金改定」を一緒に進めていきましょう。
まとめ
専門家がお答えします(Q&A)
給与制度の見直しに関して、経営者様からよくいただくご質問にお答えします。
専門家がお答えします(Q&A)
Q. 「家族手当」を廃止して、その分を「子ども手当」として増額したいのですが、問題ありますか?
A. 配偶者分の手当をなくす場合、不利益になる社員への配慮が必要です。
少子化対策として子ども手当を厚くするのは良い方針ですが、配偶者手当をもらっていた社員にとっては減収になります。その場合、数年間は差額を補填するなどの「経過措置」を設けることで、スムーズに移行しやすくなります。つまり、急激な変化を避けるクッションが必要ということです。
Q. 通勤手当を廃止して、実費精算に変えたいです。テレワークが増えたので定期代が無駄に思えます。
A. 実費精算への変更は認められやすいですが、在宅勤務への配慮がカギです。
出社しない日の交通費を払わないこと自体は合理的です。しかし、自宅での光熱費など社員の負担が増えている場合は、代わりに「在宅勤務手当」を新設するなどのバランス感覚が求められます。単なるカットではなく「形を変えた支給」にすることがポイントです。
| よくある誤解 | 正しい考え方 |
|---|---|
| 全体の給与総額が変わらなければ、法的に問題ない | 一人でも手取りが減る社員がいれば、その人にとっては「不利益変更」となる |
| 手当は会社からの「恩恵」だから、いつでもやめられる | 手当も労働契約の一部。一方的な廃止は契約違反になるリスクがある |
沖縄の給与制度見直し・就業規則のご相談なら
御社の実情に合わせ、社員のやる気を引き出しながらリスクを抑える制度設計をサポートします。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



