2024年4月に医師の働き方改革が施行されてから、まもなく2年が経とうとしています。沖縄県内でも、多くの病院やクリニックが懸命に体制を整え、この大きな変化に対応してこられたことと思います。
しかし最近、話を耳にするようになってきました。
「制度に合わせてシフトを組んではいるが、現場の先生たちが明らかに疲弊している」 「残業時間を収めるために、記録をつけずに働くことが暗黙の了解になっていないか心配だ」
最初の混乱期を乗り越え、制度が一通り定着した今だからこそ、見えてきた「歪み」があります。形だけ法律を守ろうとして、現場に無理な負担を強いていないでしょうか。
今回は、施行から約2年が経過した2026年現在の視点で、医療現場が抱える新たな課題と、今こそ見直すべき運用のポイントについて、わかりやすくお話しします。
「形だけの残業管理」になっていませんか
この2年間で、多くの病院がタイムカードや勤怠システムの導入を進めました。しかし、システム上で「残業時間」が減っていても、実際に「仕事量」が減っていなければ意味がありません。
特に懸念されているのが「隠れ残業」の問題です。
年間の上限時間(A水準なら960時間)を超えないようにするために、医師が自主的に退勤の打刻をした後で病棟に戻ったり、自宅に仕事を持ち帰ったりするケースです。これを「先生たちの自主性」として見て見ぬふりをしてしまうと、非常に危険です。
もし過労による事故や健康被害が起きた場合、病院側は「労働時間を正しく把握していなかった」として、厳しい責任を問われることになります。数字上の帳尻合わせではなく、業務そのものを減らす取り組みができているか、改めて点検が必要です。
宿日直の運用、無理が生じていませんか
制度開始前に、多くの医療機関が慌てて「宿日直許可」を取得しました。許可があれば、夜間の待機時間を労働時間から除外できるからです。
しかし、実際に運用してみてどうでしょうか。「夜間の救急対応は稀だから」として許可を取ったものの、実際には毎晩のように呼び出しがあり、先生たちが休めていないという実態はないでしょうか。
実態と異なる運用を続けることは、労務管理上の時限爆弾を抱えているようなものです。「許可を取ったから安心」ではなく、2年経った今の実態に合わせて、必要であれば許可を返上し、交代制勤務(夜勤)へ切り替えるなどの再調整も検討すべき時期に来ています。
「研鑽」と「労働」の線引き、曖昧になっていませんか
若手の医師などが、診療時間外に行う勉強や研究、いわゆる「自己研鑽」。この扱いも、現場で混乱が起きやすいポイントです。
施行当初は厳格にルールを決めたはずでも、時間が経つにつれて運用が緩み、「上司の指示なのか、自分の勉強なのか」が曖昧なまま長時間院内に残るケースが見受けられます。
特に大学病院などから派遣を受けている場合や、専門医を目指す若手医師がいる場合、この線引きは非常にデリケートです。「勉強熱心なのは良いこと」で済ませず、労働時間として扱うべきものはしっかりと記録し、賃金を支払う。この原則を徹底することが、結果として長く働いてもらえる環境作りにつながります。
今こそ「仕組み」で解決する時です
精神論や個人の頑張りで乗り切るフェーズは終わりました。これからは、具体的な「仕組み」で現場を楽にする段階です。
例えば、スマートフォンを使って院内の連絡時間を短縮したりと、沖縄県内でもデジタル技術を上手に取り入れる病院が増えています。
また、医師の事務作業を補助するスタッフの活用も、定着率を高めるための工夫が必要です。単に配置するだけでなく、医師とクラークが信頼関係を築けるようなチーム作りができているか、見直してみましょう。
まとめ
専門家がお答えします(Q&A)
Q. 医師が自主的に残業申請をせずに働いているようです。どう注意すればいいですか?
A. 病院のリスクだけでなく、医師本人の健康を守るためだと伝えましょう。
「申請しない=病院への配慮」と考えている先生もいますが、それが常態化すると、過労死ラインを超えていても気づけない恐れがあります。「正確な記録がないと、万が一の時に先生を守れない」と誠実に伝え、システム上のログと申告時間の乖離を定期的にチェックする仕組みを作りましょう。
Q. 宿直中の救急対応が増えてきました。許可は取り消されますか?
A. 実態が「軽度な業務」でなくなれば、許可の前提が崩れます。
直ちに自動的に取り消されるわけではありませんが、労働基準監督署の調査が入れば指摘を受ける可能性が高いです。また、未払い賃金のリスクも高まります。一時的な増加なのか、恒常的な変化なのかを見極め、場合によっては宿直扱いの廃止も含めた勤務体制の変更を検討すべきです。
沖縄の労務管理見直し
制度開始から2年。今の運用に無理や不安はありませんか?
現場の実態に合わせた規定の改定や、隠れ残業対策について、親身にサポートします。
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このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



