急増する「退職代行」への正しい対応と予防策。沖縄の企業が取り組むべき労務管理とは

経営者や人事担当者の皆様、ある日突然、見知らぬ業者から「御社の従業員である〇〇様の退職手続きを代行します」という連絡を受け取った経験はないでしょうか。

近年、メディアやSNSでも話題の「退職代行サービス」。特に観光業やサービス業が経済の屋台骨である沖縄県内において、従業員の突然の離職は現場のオペレーションに深刻なダメージを与えます。「なぜ直接言ってくれなかったのか」「引き継ぎはどうなるのか」と、戸惑いや憤りを感じる経営者の方も多いことでしょう。

若年層の離職率が全国的に見ても高い傾向にあり、人材の流動性が激しい沖縄では、退職代行の利用は決して対岸の火事ではありません。

今回のコラムでは、東京商工リサーチ TSRデータインサイトにて公開された最新のアンケート結果などの資料に基づき、退職代行業者への適切な対応と、従業員が定着する職場づくりのポイントを専門家の視点で解説します。

 

退職代行利用の現状と「非弁行為」のリスク

実際に、企業の退職代行サービス利用に関する最新のデータを見てみましょう。調査結果によると、2024年1月以降に退職代行業者を利用した従業員の退職があった企業は全体の約9%に上ります。大企業に限れば2割を超えており、すでに一般的な退職手段の一つとなりつつあることが伺えます。

注目すべきは業種別のデータです。退職代行の利用が最も多かったのは「宿泊業」で約24%、次いで警備会社などが含まれる「その他の事業サービス業」となっています。消費者と直接対面し、シフト制勤務が多い業種において利用割合が高いという結果は、観光産業を主力とする沖縄の企業にとって非常に重要な指標となります。

しかし、企業側もただ業者からの連絡に無条件に従うわけではありません。弁護士や労働組合以外の退職代行業者から連絡があった場合、約3割の企業が「非弁行為が含まれる可能性があるため取り合わない」と回答しています。

非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことであり、弁護士法で固く禁じられています。一般的な民間業者ができるのは、あくまで「本人の代わりに退職の意思を伝えること」のみです。未消化の有給休暇の取扱いや、未払い残業代の支払い、退職日の交渉などを企業と掛け合うことは違法となる可能性が高く、各弁護士会からも強い注意喚起がなされています。

実際に、弁護士等以外の業者から連絡を受けた企業の約3割が、有給休暇や退職日交渉など非弁行為に触れる可能性のある通知を受けた経験があることも報告されています。

根本的な問題を見過ごす経営リスク

退職代行業者からの連絡に対し、非弁行為の疑いがあるからといって、企業側が感情的に無視を決め込んだり、従業員本人に無理やり直接連絡を取ろうとしたりすることは推奨できません。適切な初期対応を怠ると、後々労働基準監督署への申告や、法的な労使トラブルに発展するリスクが潜んでいます。

また、採用活動への影響も見逃せません。前職で退職代行を利用した履歴が求職者にあると分かった場合、約半数の企業が「採用に慎重になる」としており、社会的な目も依然として厳しいものがあります。

しかし、経営者として直視すべき最大のリスクは、「なぜその従業員は、決して安くない費用を払ってまで退職代行を利用したのか」という根本的な原因を見過ごしてしまうことです。

沖縄県は全国平均と比較して、労働基準関係法令の違反率が高い傾向にあることが指摘されています。また、最低賃金が毎年上昇を続ける中で、企業は生産性の向上が急務となっています。そのような環境下で、職場の人間関係の悩み、長時間労働、適正な評価制度の欠如といった不満が蓄積し、「会社と直接話をしたくない、関わりたくない」という心理状態に従業員を追い込んでしまってはいないでしょうか。

問題の根幹を放置したままでは、時間と費用をかけて新たな人材を採用しても、すぐにまた退職してしまうという負の連鎖に陥ります。労働力不足が叫ばれ、外国人労働者の雇用も過去最多となっている現在、企業にとって「人が定着しないこと」は、事業の存続を揺るがす最大の経営リスクです。

 

従業員が定着する、正しい労務管理と職場環境づくり

退職代行を利用されるような事態を防ぎ、従業員が安心して長く働ける環境を作るためには、平時からの適切な労務管理と社内体制の整備が不可欠です。

まずは、自社の就業規則が実態に即したものになっているかを確認することが第一歩となります。厚生労働省が公開しているモデル就業規則を参考にすることは有益ですが、自社の業種や規模、実情に合わせて個別具体的に内容を吟味し、労働基準法などの関係法令を遵守した適正なルールを定める必要があります。

有給休暇の取得ルールや、ハラスメント防止に関する規程、そして退職時の引き継ぎに関するルールなどを明確にし、従業員に周知徹底することで、労使間の認識のズレを防ぐことができます。

また、日常的なコミュニケーションの活性化も重要です。定期的な面談の機会を設け、従業員が些細なことでも相談しやすい風通しの良い職場環境を構築することが、結果的に離職率の低下やトラブルの予防に繋がります。健康診断の有所見率が高いという沖縄の地域課題を踏まえ、従業員の健康管理に配慮することも、働きやすさの向上に直結します。

さらに、多様な人材が活躍する現代の沖縄においては、それぞれのライフスタイルや価値観に配慮した柔軟な労働環境の整備も求められます。法令を遵守し、従業員一人ひとりの働きがいをサポートする姿勢を示すことが、最終的に企業の業績向上と組織の強化をもたらします。

退職代行からの予期せぬ連絡は、自社の労務管理を見直すための重要なサインかもしれません。労働社会保険諸法令に則った適切な労務管理を行い、事業の健全な発展と従業員の福祉の向上を両立させる仕組みづくりをご検討してみてはいかがでしょうか。

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このコラムを書いている人

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玉城 翼(たまき つばさ)

社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士

沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。

2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。

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