「うちはストレスチェックをちゃんと実施しているけれど、集団分析まではどう扱えばいいのか、正直あいまいなまま進めている」—そうした状況、実は多くの人事労務担当者が直面しています。特に沖縄県では、精神障害に関する労災請求が増加傾向にあり、健康診断の有所見率も全国より高い水準で推移しています。人手不足が全産業で深刻化するなか、働く方のメンタル不調を未然に防ぐ取り組みは、採用・定着の面からも企業様にとって避けて通れないテーマになりつつあります。
そんな中、ストレスチェックの「集団分析」に関する労働安全衛生規則が改正されました。令和8年6月30日に公布され、令和9年4月1日から施行されます。今日はこの改正が実務にどう関わってくるのか、担当者様の目線で整理していきます。
そもそもストレスチェックの「集団分析」とは
ストレスチェック制度は、検査そのものだけで完結する仕組みではありません。労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐという目的のもと、検査・集団分析・職場環境改善までを含めた一体的な仕組みとして設計されています。
検査の個人結果は、プライバシー保護の観点から働く方本人に直接通知され、基本的に事業者には提供されません。一方で事業者に提供されるのが、個人が特定されないように事業場や部署などの単位で集計・分析された「集団分析」の結果です。この結果を活用して、職場環境の改善に組織的に取り組んでいくことが期待されています。
集団分析は、法律上は事業者の努力義務として位置づけられています。実施を検討した医師などに検査結果を一定規模の集団ごとに集計・分析させるよう努める、という組み立てになっており、この基本的な枠組み自体は今回の改正でも変わりません。
今回の改正で明文化された「個人を識別できない方法」
では何が変わったのか。改正のポイントは、集団分析に関する規定に「特定の個人を識別することができない方法で」という一文が新たに加わった点にあります。
厚生労働省の説明によれば、これは集団分析について「個々の労働者が特定できないことを前提とする」という従来からの解釈を、規定のうえで明文化した趣旨とされています。つまり、まったく新しい義務が突然生まれたというより、これまで運用上当然とされてきた考え方が、条文の文言としてはっきり示されたと理解するのが正確です。実際、個人が特定されない方法での運用の具体的な中身についても、従来の指針で示されてきたものが想定されており、運用そのものに変更を加えるものではないと整理されています。
ここで担当者様が実務上おさえておきたいのが、集計・分析の「単位」の考え方です。集団分析は、個人が特定されない方法で実施する必要があります。そして集計・分析の単位が10人を下回る場合には、個人が特定されるおそれがあることから、原則として集団分析を実施してはならないとされています。特定の個人が識別できる方法で集団分析を行っても、改正で求められる努力義務を果たしたことにはならず、労働者のプライバシー保護の観点からも許容されないという整理です。
小規模な事業場や、部署ごとに分けると人数が少なくなってしまう職場では、この「10人」という目安が実務上の悩みどころになりがちです。この点については、10人を下回る場合でも個人が特定されるおそれのない方法として、調査票の全57項目の合計点について集団の平均値を求める方法や、「仕事のストレス判定図」を用いて分析する方法が示されています。ただし、これらの方法であっても極端に少人数の場合は個人の特定につながるため不適切とされており、事業場自体が小規模な場合には、10人以上のより大きな集団を構成するよう工夫したうえで集団分析を行うことが求められます。
このあたりは、自社の組織構成をどう区切って分析単位を組むか、少人数の部署をどう扱うかといった判断が必要になり、担当者様お一人で「これで個人が特定されないと言い切れるだろうか」と確信を持つのは、なかなか難しい部分です。
「相談するほどでもないかな」と思っていることが、実は一番大事だったりします。
初回無料相談はこちら対応があいまいなまま進めると、どんなことが起こりうるか
集団分析は努力義務であるため、「やらなくても罰則があるわけではないから」と後回しにされがちなテーマです。しかし、対応があいまいなまま進めることには、いくつか見過ごせない側面があります。
まず、分析単位の設計を十分に検討しないまま少人数の集団で結果を出してしまうと、意図せず個人が特定されうる形になってしまうおそれがあります。これは働く方のプライバシーに関わる問題であり、制度への信頼を損ないかねません。ストレスチェックは働く方が安心して回答できてこそ意味を持つ仕組みですから、「回答内容から自分が特定されるかもしれない」という不安が広がれば、率直な回答が得られなくなり、制度そのものが形骸化してしまいます。
また、集団分析は本来、職場環境の改善という次の一手につなげるための情報源です。分析結果を得ても活用の道筋が描けていなければ、せっかくの取り組みが「実施しただけ」で終わってしまいます。沖縄県のように精神障害の労災請求が増加傾向にある地域では、職場環境の改善に組織的に取り組めているかどうかが、いざというときの企業の姿勢を示す要素にもなり得ます。改正を機に、自社の集団分析のやり方が個人を特定しない方法として適切か、そして結果を職場改善にどうつなげるかを、あらためて点検しておく意義は小さくありません。
改正を、自社の仕組みを見直すきっかけに
今回の改正は、運用を根本から変えるものではなく、これまで当然とされてきた考え方を明文化したものです。だからこそ、「特別な身構えは不要だけれど、この機会に自社のやり方を確認しておく」という向き合い方が、担当者様にとって最も現実的で建設的だと考えます。
集団分析の単位をどう設計するか、少人数の部署をどう扱うか、得られた結果を職場環境の改善にどうつなげていくか。こうした点は、制度の趣旨を踏まえながら自社の実情に合わせて個別具体的に検討していく必要があります。厚生労働省が設置する産業保健総合支援センターでは、社労士や心理職、保健師などの専門スタッフによる相談や制度導入支援を無料で受けることもできますので、こうした公的な支援もあわせて活用いただければと思います。
そのうえで、「自社の組織構成に即して具体的にどう組み立てればよいか」「集団分析の結果を実際の職場改善にどう落とし込むか」といった、御社ならではの事情に踏み込んだ検討については、専門家と一緒に整理していくのが近道です。当事務所では、沖縄の企業様の実情に寄り添いながら、ストレスチェックの運用設計から職場環境改善の取り組みまで、経営者・担当者様のパートナーとしてご一緒します。
集団分析のやり方、自社で個人が特定されないか確認しませんか
分析単位の設計から結果を職場改善につなげる進め方まで、御社の組織構成に合わせて一緒に整理しましょう。まずは現状をお聞かせいただくだけで構いません。
初回無料相談を予約する🔒 秘密厳守 ⏱ 24時間受付中
このコラムを書いている人
玉城 翼(たまき つばさ)
特定社会保険労務士/1級FP技能士/キャリアコンサルタント/宅地建物取引士
沖縄県宜野湾市出身。大学時代より地域貢献に関心を持ち、卒業後は販売・イベント・不動産業務など多分野を経験。その後、労務管理やキャリア支援に従事し、実務を通じて社会保険労務士を志す。
2021年より総務部門を統括し、給与計算・労務管理・制度改定・電子申請導入など業務改善を推進。社労士試験に一発合格し、2025年「つばさ社会保険労務士事務所」設立。地域の中小企業を支えるパートナーとして活動中。
▶コラム: 私が社労士になった理由



